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2014.03.26

「新・若さま同心徳川竜之助 6 乳児の星」 消えた赤ん坊、帰ってきた赤ん坊の謎

 正編での語られざる事件を描く「新・若さま同心徳川竜之助」シリーズも、早いもので本作でもう第6弾。今回は、師走の江戸を騒がせる赤ん坊誘拐事件から始まる入り組んだ謎の数々を、田安家の若さまにして南町同心の徳川、いや福川竜之助が解き明かすこととなります。

 慌ただしい師走の日本橋界隈で起きた、生まれたばかりの赤ん坊誘拐事件。それも一件ではなく、別々の家で都合四件も起きたのですから尋常ではありません。
 しかも、探索が続くうち、八丁堀の役宅から、竜之助の先輩同心の赤ん坊までも誘拐されるという、大胆不敵な犯行に、奉行所もいよいよ捜査に力を入れる――と思いきや、数日後に発見された赤ん坊たち。

 赤ん坊の母親の一人でいまどきの(?)ヤンママが育児放棄したことで、いきなり赤ん坊を預かることになってドキドキの竜之助とやよい…は置いておくとして、なおも解けない事件の謎。

 ついに赤ん坊たちの共通点を見つけた竜之助ですが、その一方で町では不審な殺され方をする者が幾人も現れ、一層混迷は深まっていきます。
 果たして数々の事件の間に繋がりはあるのか、そして何故赤ん坊たちがさらわれなければならなかったのか…事件の果てに、竜之助は意外な強敵と対峙することになります。


 これまで何度も述べてきましたが、一冊が短編数話構成だった正編に比べ、こちらの新編は一冊一話の長編スタイル。当然、それだけ入り組んだ物語が描けるわけですが、本作はそのスタイルの良さが一番良く出ているように思えます。

 本作で描かれる生まれたばかりの赤ん坊の誘拐が、それも数件同時に起きるという、明らかに異常な事件で問題になるのは、ハウダニットではなく、ホワイダニット。
 元々作者の作品では、市井で起きた怪事・珍事が何故起きたのかを探るうちに、それが意外な大事件に繋がっていく…という展開が少なくないのですが、本作は作品の比較的早い段階で誘拐された赤ん坊が帰ってくるという、二重のホワイが用意されているのが実にうまい。

 作品の性質上、あまりはっきりと述べるわけにはいかないのですが、この明らかに不自然な(更に言えば、一件だけ遅れて、八丁堀同心の赤ん坊も誘拐されるという)犯行に、きっちりと意味があるのには――当たり前だと言えば当たり前ではありますが――お見事と言うべきでしょう。
 正直なことを言えば、本シリーズの中には、ミステリとして途中まで盛り上がったものの、終盤で失速した作品もあるのですが、本作はさらに幾つもの事件をそこに絡めることにより、ラストまでこちらの興味をきっちりと引っ張ってくれたのは嬉しいところであります。

 一点だけケチをつければ、本シリーズでは定番とも言える敵方の使う奇剣怪剣の正体が、あまり緊迫感のない形で明かされてしまう点ではありますが…この点だけは本当にもったいない。

 とはいえ、本シリーズの中でもミステリとしては屈指の出来であり、もちろんお馴染みの面々も元気に活躍する本作は、シリーズファンであれば必見の作品と言ってよいのではありますまいか。


 ちなみに…作中で言及されるのですが、本作の時間軸は、正編の第3弾「空飛ぶ岩」と同時期。いわば正編の倍の頻度でこの新編は事件を解決しているのですが――作中でも竜之助自身がちょっぴりメタに感心しているのがおかしい――さらにその頻度はこれからも増していくことでしょう。
 もちろん、それが本作のような作品であれば、大歓迎であります。


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