「八百万討神伝 神GAKARI」第1巻 恐怖と悲劇を粉砕するギャグ
時は戦国、日本には各地に八百万の神々がいた。しかしそんな中、邪神抹殺を使命とすると称するアブない修行僧・空也が現れた。彼に叩きのめされた成長途中の妖狐・玉藻は、彼の精を得ようと近づくが、全く相手にされず、こき使われるばかり。おかしな二人の邪神退治の旅が始まった…
数年前に終了した作品を今頃に取り上げるというのも自分の無知を晒すようでまことにお恥ずかしい話ですが、本当に面白いのですから、胸を張って紹介いたしましょう。
ベテラン楠桂による時代伝奇ホラーラブ(?)コメディ活劇であります。
神話の時代から八百万の神々がいると言われるこの国。しかしその中には人を害する悪しき神もいるのもまた事実であります。
本作の主人公で有髪隻眼の修行僧・空也は、そんな神々を目の敵にする男。人並みはずれた体力と法力を持ち、己の黒い血で描いた仏を実体化させる技を持つ凄腕の密教僧なのですが…
彼に唯一(?)足りないのは慈悲の心。己の敵いやさ仏敵には全く容赦せず叩きのめし痛めつける俺様ドS男なのであります。
そんな彼が仏敵滅殺の旅に出て出会ったのは、とある里で男たちから天女の如く崇められる姫神。彼女の正体が妖術で男たちを誑かしている妖狐・玉藻であることを知った空也は彼女を当然の如く叩きのめし、キツいキツいお灸を据えるのですが――
人の身でこれだけの法力を持つ男の精を受ければ、自分の妖力も高まるはず…と彼にまとわりつき、あの手この手で誘惑する玉藻ですが、空也にはまったく通用せず、下僕としてこき使われるばかり。
そんなこんなで旅を続ける二人が、各地で出会う神と対決していくというのが基本設定であります。
もともと作者は(時代)伝奇ホラーの名手ではありますが、それと並ぶ顔が、過激なスラップスティックコメディの名手。
実に本作は、この二つの顔がきっちりと結びついた作品であります。
というのも本作、基本設定は上記のとおりかなりギャグ寄りではありますが、描かれる物語自体はかなりシビアなものばかり。
人間とは明らかに異なるロジックを持ち、しかし彼らなりの情や想いを持つ神や妖と、様々な業を抱えた人間が出会った時に生まれる情念の地獄絵図。それは作者の時代伝奇ホラーでしばしば見られる構図ですが、本作にもそれは通底して描かれるのであります。
たとえばこの第1巻に収録された化け猫のエピソードなど、登場人物の名前こそ鍋島に龍造寺と、鍋島の化け猫騒動をモチーフとしているものではあります。
しかし、あちらが一種の仇討ち物語であったのに対し、こちらは妖の性と人の業が掛け違った末に恐ろしくも哀しい物語が生まれる点で明確に作者の作品として感じられるのであります。
…しかしそんな恐怖と悲劇を問答無用のパワーでコミカルに粉砕していくのが本作。なるほど、こういう組み合わせ方があったかと、作者の作品はかなり以前から読んでいるつもりでしたが、今更ながらに感心したところであります。
というわけで残り3巻も、近いうちに紹介させていただきたいと思います。
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