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2014.03.20

「どうせおいらは座敷牢 喧嘩旗本勝小吉事件帖」 帰ってきた三重の名探偵

 無頼が高じて周囲の手で座敷牢に閉じこめられてしまった貧乏旗本・勝小吉。今日も牢の中で退屈を持て余す小吉は、気晴らしのため、そして何よりも金と出仕のつてのため、子分の又四郎に命令して、巷の怪事件を集めさせる。江戸の町を騒がす怪事珍事に、座敷牢にいながらにして挑む小吉だが…

 あの座敷牢探偵が帰ってきました。今から十年以上前に雑誌連載され、つい昨年連載を再開した、風野真知雄の「喧嘩旗本勝小吉事件帖」(旧題「勝小吉事件帖 喧嘩御家人」)の、待望の続編であります。

 勝小吉と言えば、ご存じの方も多いと思いますが、幕末の英傑・勝海舟の父親であります。
 海舟自身、様々な逸話を残す人物ではありますが、その父たる小吉は、それに輪をかけて破天荒な生き様だったと言われる人物。何しろ、歴とした旗本でありながらも、生涯二度も座敷牢に閉じこめられたというのですからとんでもない。
 そして本作は、そのとんでもない男が、その座敷牢に入れられていた時代を舞台にした、ユニーク極まりないミステリなのであります。

 二十歳を過ぎて、目に入れても痛くないような一子・麟太郎が生まれたにも関わらず、一向に行状が改まらない小吉。喧嘩と悪だくみが何よりも好物の彼は、座敷牢に入れられたからといって、大人しくしているわけがありません。
 幼なじみで悪友で子分の御家人の倅・早川又四郎に命令して、巷のおかしな噂をかき集めさせた小吉は、その謎を解いて金にしようと、そしてあわよくば出仕の足がかりにしてやろうと、今日も悪知恵を働かせる――というのが、本シリーズの基本設定であります。

 ちまたのちょっとおかしな出来事、事件ともいえないような珍事や怪談から、その裏の思わぬ事件を探偵役の主人公が暴くというのは、これは作者の作品の多くに共通する構造ですが、本シリーズはその探偵役が座敷牢の中、というのが最大の特長であることはいうまでもありますまい。
 ミステリには、現場に足を運ばず、伝聞で事件を解決してしまう安楽椅子探偵もの、というジャンルが――そして時代小説でも城昌幸の「若さま侍捕物手帖」という大名作がありますが――ありますが、主人公が牢の中というのは、皆無でないにしろ珍しい。

 そして本シリーズの場合、それに加えて主人公は歴史上の有名人であり、さらにその目的は任務でもなければ正義感でもない私利私欲のためであります(この方面の時代ものでの先輩は、やはり都筑道夫の「なめくじ長屋捕物騒ぎ」でありましょうか)。
 つまりは、勝小吉は、安楽椅子(座敷牢)探偵であり、有名人探偵であり、アウトロー探偵であるという、三重にユニークな存在。
 安楽椅子探偵でもおとなしくなくしているわけではなく、有名人であっても史実の軛から(ある程度)自由で、アウトローといっても人の親としてどこか人の良いところを見せる――そして本シリーズは、その三つの属性が巧みに絡み合って愛すべき探偵像と世界観を生み出す、前代未聞の作品なのです。


 さて、本書に収録されているのは全部で八つの短編。一編当たりの分量は少なめであり、それゆえミステリとしてあまり凝ったものではない、ライトな味わいの作品ばかりなのですが――そしてそれは、作者定番の持ち味でありますが――しかしほとんどの作品に一ひねりが利かせてあるのが嬉しい。

 ハウダニットを解き明かしてもその先にホワイダニットが待ち受けていたり、一つの謎を解いたと思えばそこから新たな事件が起こったり、事件を解決してさあ礼金をと思えば意外な事態が起こったり…
 そんな展開に加えて先に述べた小吉のユニークな存在があるのですから、不満はない…というより満足できる内容であります。

 そんな中でも特にユニークな作品を挙げれば、ラストに並んだ「座敷牢の殺人」と「友だちに好かれる薬」でしょうか。
 内容の詳細は伏せますが、どちらもシリーズ中の異色作でありつつも、しかしこのシリーズでなくては成立しない内容で、かつ小吉のキャラも大いに立っているという、シリーズの楽しさを満喫できる作品なのであります。


 そんな楽しさに溢れた本シリーズは、現在も「小説NON」誌で連載中。シリーズ第三弾は、本書ほど待たされずに手にできそうであります…というのは欲張りに過ぎるでしょうか。


「どうせおいらは座敷牢 喧嘩旗本勝小吉事件帖」(風野真知雄 祥伝社文庫) Amazon
どうせおいらは座敷牢 喧嘩旗本 勝小吉事件帖 (祥伝社文庫)

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