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2014.03.17

「まほろばの王たち」 複数の世界、複数の歴史に

 物部の姫・広足は、自分が仕える賀茂一族の長・大蔵が、乙巳の変で滅んだ蘇我氏の神や妖を叩きのめしていくのに嫌悪感を抱く。広足が妖に治癒の呪を唱えたことで形勢逆転し、瀕死となった大蔵が助けを求めたのは、賀茂の行者・小角だった。大蔵を助ける代償として、広足は小角に仕えることに…

 仁木英之が、「役立の小角」のタイトルで「エソラ」Vol.15に発表した作品が、加筆修正されて単行本化されました。
 旧題からわかるように、本作の中心となるのは伝説の呪術者・役小角。7、8世紀に葛城山に住み、呪術によって鬼神を使役したと言われる、修験道の祖であります。
 その超人的な活躍が様々な伝説に残っているだけに、フィクションに登場することも少なくない小角ですが、しかし本作は独特の視点から小角を、彼の生きた時代と世界を独自に再構成した物語となっております。

 そんな本作の主人公/語り手となるのは、かつて蘇我氏に滅ぼされた物部の姫・広足。その料理の腕を買われて、賀茂一族の長・大蔵、次いで小角に仕えることとなった彼女は、小角の側で、山に暮らす民と、彼らと共に存在してきた古き神々の世界を垣間見ることとなります。

 時あたかも、乙巳の変で中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我氏――彼らは、広足の一族である物部氏を滅ぼした者たちでもあります――
を滅ぼした直後の時代、すなわち大化の改新の頃。
 諸説はあるものの、大和朝廷による中央集権国家の樹立に向けた端緒となったといえるこの改革期は、裏を返せば、中央に対する者/モノたち、後にまつろわぬ者と呼ばれた存在に、国家の規制が強く及ぶようになった時代と言えるでしょう。

 本作で描かれるのは、まさにその両者の相剋であります。作中で小角と広足が巻き込まれるのは、山から都に現れ人の魂を喰らうという鬼と、次々と山の神々を襲う神喰らいにまつわる事件。
 都の民も山の民も、互いに互いの仕業と疑い、一触即発となる中、小角と広足が、大海人皇子とウ野讚良が、阿倍比羅夫が――それぞれの立場から、事件と相対し、その背後にあるものを探っていくことになります。

 その中でも特異な位置を占めるのは、もちろん小角と広足であります。
 賀茂氏の傍流でありながらも、一族の在り方に同調せず、山の民や神々にすら一目置かれる小角。滅んだとはいえ都の民として生まれつつも、小角とともに行動するうちに、山の民や神々と交感していく広足――二人は、それぞれに依って立つ場所は違えども、ともに境界に立ち、二つの世界を理解し、それぞれの安寧のために行動するものなのです。


 そしてそんな彼らの存在は、本作のタイトルに示されるある概念へと繋がっていくことになります。
 まほろばの王たち――まほろばはこの日本を指す古語でありますが、元々の意味は「優れた場所」のこと。そして王たちは、本作に登場する帝(に将来なる者)たちを指すだけでなく、彼らに並ぶ者として存在した、山の民の長たちのことをも指すのでありましょう。

 すなわち、本作で示される世界、小角と広足が暮らす世界は、決して単一の世界観・歴史観で捉えられるものではなく、今は既に滅んでしまったけれども、かつて存在した(かもしれない)者たちが暮らす世界なのであります。
 そしてその世界の在り方を、今の我々のそれと重ね合わせて見る時――そこに生まれるのは他者を受容するという視点であり、それは今この時代において、何よりも重要なものとして感じられるのです。

 神や鬼や妖の蠢く、奇想天外で、どこかパワフルで楽しい世界を描きつつも、その中に人として持っておくべき様々な美点をちりばめてみせる――他の作品同様、作者の優しい視点が、濃厚に感じられる作品であります。


 ちなみに小角の伝説を知る方であれば、「おっ」と思ったであろう広足の名。その伝説が果たして真か偽か…やはりこの先の物語もぜひ描かれて欲しいものです。


「まほろばの王たち」(仁木英之 講談社) Amazon
まほろばの王たち

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