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2014.03.02

「のっぺら あやかし同心捕物控」 正真正銘、のっぺらぼう同心見参!

 南町奉行所定町廻り同心・柏木千太郎は腕利きかつさっぱりした気性で、江戸の市民たちの人気者。そんな彼は、顔のないあやかし――のっぺらぼうだった。今日も江戸で起きる奇怪な事件に、千太郎は下っ引きの伊助、親友の堅物同心・片桐正悟と共に挑む。

 口幅ったいようですが、このようなブログで毎日文章を書いている身として、時代伝奇もの…というか、常ならざる要素のある時代ものの設定で驚くことはだいぶ少なくないのが正直なところであります。
 しかしそんな私でも、本作の設定にはさすがに仰天しました。「あやかし同心」というのはあやかしを退治する同心かと思いきや、あやかしが同心――正真正銘ののっぺらぼうが、江戸町奉行所の同心だというのですから!(言うまでもなく、パラレルワールドの、人間がいない江戸というような設定ではありません)

 主人公・柏木千太郎は、父親は普通の人間ながら、訳あって(?)彼はのっぺらぼう。しかしのっぺらぼう程度で驚いては江戸っ子の名折れ…ということで、彼は父の跡を継いで町方同心として活躍の毎日であります。
 腕が立つばかりでなく、情に厚く正義感にあふれ、気性はさっぱりと嫌みなく驕るところもない彼は、「男は顔じゃない」と江戸中の評判――

 というと冗談のようなお話に聞こえるかもしれませんが、本作はコミカルな部分は多分にあっても真面目も真面目。
 確かに、のっぺらぼうが同心をやっているというのは大いなるフィクションでありますが(理屈をつければつけられなくもないところをあえてスルーしているのは本作の場合正しい在り方かと)、それを「事実」として丹念に、そしてコミカルに肉付けしていくことにより、何ともユニークで、しかし地に足の着いた物語を展開しているのが最大の魅力であります。

 そんな本作は、短編三編で構成された連作短編集スタイル。
 大店の娘がたちの悪い男に拐かされそうなので男を捕まえてくれ、という筋が通ったような通ってないような依頼が発端の「あやかし同心」。
 ある日見つかった、頭も手足もない女の体は、しかし死体ではなく息の通った生体だった、という奇想天外な「ばらばら」
 千太郎の顔に娘が落書きしたことがきっかけで、正悟が人捜しに奔走することになる「へのへのもへじ」。
 一見ごく普通の市井の事件もあれば、事件の発端そのものが超常的なものもあり、なかなかユニークなラインナップであります。


 しかし個人的に強く本作の在り方を印象付けたのは、第一話の「あやかし同心」であります。
 たちの悪い男に騙された箱入り娘というシチュエーション自体は、時代ものによくあるわけですが、本作の場合、その情報を持ってきた依頼者にまつわる違和感が、物語の大きな要素として存在しているのが面白い。
 そして何よりも、結末で明かされる、依頼者が何故娘を救おうとしたのか、そして何故千太郎に声をかけたのか、それが明かされた時――本作における千太郎の役割が見えてきたように思います。

 そもそも、奉行所ものが文庫書き下ろし時代小説の定番として数多くの作品が刊行されているのは、その主人公たちが、武士でありながら、役人でありながらも、庶民の――声なき者の――声の代弁者として活躍する点にあるのだと私は考えています。
 しかし、声なき者とは、必ずしも人間に限らないのではないか。だとすれば、そんな声の代弁者たる存在がいてもいい、いるべきではないか…

 千太郎は、まさにそうした存在としているのではないかと感じるのです。そして本人自身が声なき者、というのもまた示唆的ではありますまいか。


 と、そんな理屈は抜きにしても、本作は十分以上に独創的であり、そして読んでいて思わず吹き出してしまうような(本当に、何度吹き出したことか)何とも楽しい作品であることは間違いありません。
 そんな本作の魅力は、アバンタイトルとも言うべき冒頭部分を見れば、明らかでしょう。書店で見かけたら、是非手にとって、冒頭数ページだけでも読んでいただきたい――そしてハマっていただきたい、そんな快作の誕生です。


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