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2014.04.17

「応天の門」第1巻 意外すぎるバディが挑む平安の闇

 タイトルを見たときから大いに気になっていた漫画の単行本第1巻が、いよいよ刊行されました。「応天の門」――日本史好き、平安好きであれば、おっとなるタイトルですが、しかしそのあらすじを知れば、大いに驚くことでしょう。
 何しろ在原業平と菅原道真がコンビを組んで、都を騒がす怪事件を解決するというのですから!!

 業平と道真――どちらも平安時代の有名人ではありますが、この二人を結びつけて考える人間はほとんどありますまい。
 何しろ、かたや数々の浮き名を流したプレイボーイ歌人、かたや改革に燃えながら政争に敗れ去った悲劇の秀才…その生きた世界も、生き方も大きく異なる二人なのですから。

 そんな印象を踏まえると相当意外に感じられるのですが、しかしこの二人は、丁度20歳という年の差こそあれ、実はほとんど同時代人。同じ都に暮らしていた以上、どこかですれ違っていても不思議ではないのです。

 …が、そこからこの二人が怪事件に挑むバディものを作ってしまおうというのが本作の非凡なところであります。

 都で相次ぐ女官の行方不明事件。鬼の仕業とも噂される事件の調査に当たることとなった業平は、その最中に一人の少年――傲岸不遜で無神経ながら、鋭敏な頭脳と理不尽を憎む心を持った少年・菅原道真と出会うこととなります。
 事件の下手人として捕らえられたのが知人であったこともあり、そして何よりもその推理力に目を付けた業平に引っ張られて、事件の謎に挑むことになった道真がたどり着いた真実は…

 というのが、この第1巻の前半に収められたエピソード「在原業平少将、門上に小鬼を見る事」のあらすじであります。
 先に述べたとおり歌人・色男の印象が強い――そしてそれは本作でもそのとおりではあるのですが――業平ですが、彼の役職は左近衛権少将…要するに内裏の守備や皇族の警護を司る高級武官。なるほど、些か地位が高いとはいえ、彼が都を騒がす事件の調査にあたっても、さまでおかしくはありません。

 そして同じ頃、道真は文章生(歴史・漢文学を学ぶエリート)となったばかり――やはり暮らす世界も、そしてその暮らしぶりも全く異なる二人ではありますが、その二人が事件に結びつけられて、(主に道真が)文句を言いながらも共通の目的のために活躍するというのは、大いに胸躍らされるものがあります。

 さらに後半に収められた、和歌に琴に漢籍に、類い希な才能を持ち、多くの貴族に言い寄られながらも、御簾の中から決して顔を出そうとしない姫を巡るエピソード「都を賑わす玉虫の姫の事」も実に面白い。

 彼女に熱心に言い寄っていた男の死と、彼女を入内させようとする貴族たちの動き。そこに姫の正体の謎解きが絡み、展開する物語は、ミステリ的には比較的単純なトリックながら、それが成立するのが、この時代ならではの理由によるのが嬉しい。

 さらに面白いのは――これは最初のエピソードもそうなのですが――事件の謎を解き明かして終わるのではなく、それに加えて、ある理由から真実を隠蔽し、もう一つの真実を用意してみせる点でしょう。

 この辺り、物語的な必然性はもちろんのこと、ある理由から権力に対して鬱屈した想いを抱える業平と、年若き秀才であるが故にこの世の理不尽に我慢が出来ない道真という、ユニークなしかしどこか納得のゆく主人公二人の性格設定に結びついているのも実にいい。


 取り合わせの意外性だけではなく、時代背景を活かした物語の面白さ、人物造形の巧みさと、言うことなしの本作。

 タイトルから想像してしまうのは、もちろん平安史上に残る事件・応天門の変でありますが、変が起こるまで、まだ4年ほどあります。
 それまでに二人がどのような事件と出会い、どのような活躍を見せてくれるのか――これはまた、先が楽しみな物語が生まれたものであります。



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