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2014.04.06

「義経になった男 3 義経北行」 二つの呪いがもたらすもの

 義経の影武者となった男・沙棗の目を通じ、平安時代末期から鎌倉時代初期の動乱と、その中で奥州藤原氏の興亡を描く「義経となった男」もいよいよ後半戦の第3巻。頼朝に疎まれ、逃亡の末に奥州に帰り着いた義経主従を中心に、ついに平泉の運命が激しく動き出すこととなります。

 尊敬する兄・頼朝のために平家との戦で大活躍しながらも、それがために兄に疎まれた義経。鎌倉に入り、兄と対面することも許されず、ついには謀叛人として扱われることとなった義経は、その現実を受け入れることができず、ついには廃人と化してしまうのでありました。
 ことここに至り、沙棗は「義経」として一党を率い、初めて義経と出会った奥州平泉にまで落ち延びた…というのが第2巻までのあらすじであります。

 そしてこの巻で描かれるのは、義経の死と奥州合戦の始まり。奥州に逃れた義経が、頼った先の奥州藤原氏に攻められて自刃して果て、そしてその奥州藤原氏もまた、頼朝の鎌倉幕府の攻撃を受けて滅亡する…
 これは紛れもない史実であり、そしてもちろん、本作もその軛からは逃れられるものではありません。確かに義経はここで死に、そして奥州藤原氏は滅びに向かって動き始めるのであります。

 ――が、これまでがそうであったように、いやこれまで以上に、「正史」を敷衍しつつも、その裏にあるもう一つの「真実」を描いていくのが本作なのです。
 確かに義経は平泉で死んだ。しかし「義経」は生きているとしたら。確かに奥州藤原氏は滅びに向かい始めた。しかしそれも全て、ある目的のために自らが望んで仕組んだものとしたら。

 正史と表裏一体のもとして存在する稗史。日本においてその最大のものは、間違いなく義経生存説、義経北行説でありましょう。
 多くの伝説が遺されつつも、それだけにかえってその信憑性には疑問を感じざるを得ない義経生存説、フィクションの題材としても正直なところ手垢のついたこの題材を、しかし本作は意外な角度から掘り下げ、独自の意味を与えていきます。
 それは義経の頼朝に対する複雑な思い…自らを狂気の淵に落とし込むほどのその意思は、これまでの本作の義経の原動力として描かれてきましたが、それが彼の死後もまた、大きく物語を動かすキーとなるとは、ただ感嘆するほかありません。
(そしてそれがまた、彼らの宿敵ともいえるある人物の内面にも影響を与えていくのが興味深い)

 しかしそれ以上に、本作で描かれる奥州藤原氏滅亡の真の理由は、これはもう時代伝奇小説として、白眉と呼ぶしかありません。
 歴史上の敗者をして、あるいは勝者となれるはずだった(のに、ある原因のために惜しくも敗れざるを得なかった)と描くのは、これはまさに「判官びいき」の典型であり、本作もその系譜にあると言えるかもしれません。
 しかしここで描かれるその真因たるや…「判官びいき」などというレベルではない、あまりにも意表を突いた、しかし崇高なるもの。あまりに巨大な歴史のifに、怒るか笑うか感心するか――あまりにスレスレでありつつも、しかしそこに秘められた意思には、心打たれるほかないのです。

 そして本作は、この二つの意思を「呪い」と呼びます。なるほど、時の権力者にとってみれば、それはまさしく「呪い」としか思えぬものでありましょう。
 そしてその呪いがこの先、本作の中に生きる人々全てに何をもたらすのか…それは最終巻で描かれることとなります。

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