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2014.04.20

「義経になった男 4 奥州合戦」 そして呪いと夢の果てに

 源義経の影武者となった男・沙棗を通じて義経の生涯と奥州藤原氏の運命を描く「義経となった男」も、この第4巻で完結。「奥州合戦」のサブタイトル通り、この一冊を通じて描かれるのは、第3巻後半で始まった鎌倉と奥州の合戦の様と、その果ての登場人物たちの運命の行方であります。

 頼朝に疎まれた衝撃で廃人と化し、沙棗に導かれて逃れた先の平泉でようやく意識を取り戻したものの、重圧に耐えかねて自刃して果てた義経。

 しかし義経の死をもってしても、鎌倉幕府の奥州攻撃が避けられないことを悟った奥州藤原氏は、自分たちが敢えて滅びることで、奥州の平穏を守ることを決意します。
 そして義経の最後の望みが、どこまでも兄・頼朝に追われること――兄の心に残り続けること――であったことを悟った沙棗もまた、「義経」として、奥州に協力することになるのであります。


 義経の影武者・沙棗の存在を以て、史実の背後に巨大な虚構を描いてきた本作ですが、あくまでも史実を踏まえて、義経は衣川で命を落とし、藤原国衡・泰衡の死を以て奥州藤原氏は滅亡いたします。…表向きは。

 個人的には、藤原泰衡は、父・秀衡の遺命に叛いて奥州を頼ってきた義経を攻め滅ぼして鎌倉に恭順の意を示し、挙げ句、その鎌倉から攻められて滅んだということで良いイメージがありません。
 しかし本作における泰衡の――いや奥州藤原氏とその郎党たちの――行動は、全て計算尽くの、そして覚悟の上のもの。

 戦えば決して勝てない相手ではない鎌倉幕府。しかし彼らを滅ぼしたとて戦いは終わらず、自分たち奥州の民がそれに取って代わり、さらなる戦乱を招く。
 それでれば、自分たちを百年の安寧の末に戦いを忘れた愚将と装って敢えて滅びることで、迷信深い頼朝ら鎌倉武士の心に「呪い」をかけよう――

 そんな決意の下に滅んでいく泰衡らの姿は、勝てる戦いをわざわざ捨てているだけに、史実とは正反対の意味で非常に歯がゆいのですが、しかしそれだけにその最期が強く胸を打ちます。
 実にこの第4巻においては、物語の前面に登場するのは彼ら奥州武士の姿であり、主人公たる沙棗は物語の背景に留まった…という印象すらあります。


 そして一つの戦いが終わった末、登場人物たちが辿る結末。奥州藤原氏の残した「呪い」、そして沙棗たちが工作した義経北行という「呪い」――二つの呪いが成就していく姿は、無常な歴史における敗者の反撃の姿として、溜飲が下がるもの…と言えるかもしれませんが、しかし人を呪わば何とやら。
 呪いをかけた者たちもまた、呪いに縛られていくことを示す結末は、重いものを残します。

 しかし…それでも彼らが不幸であったか、彼らの生涯が空しいものであったかは、また別の価値判断でありましょう。己の生において一つの想い――それがネガティブな作用をもたらすものであれば「呪い」、ポジティブな作用をもたらすものであれば「夢」というのではありますまいか――を貫いたことは、決して軽く見られるべきものではありますまい。


 鎌倉側の人間の大半がほとんど人でなしであったり、奥州側の「実は勝てた」が強調されすぎているように感じられたりと、粗削りな部分は感じられます。
 しかし無常な歴史の流れを、無情な史実を描きつつも、その背後に生きた数々の人々の姿を、伝奇的ガジェットでもって描く手法は、新たなる義経伝として大いに賞されるべきでありましょう。
 そしてまた、これが時代小説家・平谷美樹の出発点であり、さらに本作を踏まえて大作「風の王国」があるであろうことを考えれば、また感慨深いものがあるというものです。


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