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2014.04.16

「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」第9巻 褐色の信長、その名は…

 天正遣欧少年使節五番目の少年・播磨晴信と、彼に仕える最強の忍び・桃十郎が世界各地で大冒険を繰り広げる「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」、久々の単行本第9巻が刊行されました。ついに一行が辿り着いたインドはゴアで二人をそれぞれ待っていたのは…?

 アユタヤでの国の命運を賭けた大決戦、そして桃十郎を狙うくノ一・ホトトギスとの戦いの末にようやく一行がたどり着いたゴア。
 当時はポルトガルの支配の下、アジア貿易の中継点として繁栄を見せていたゴアは、同時に、アジアにおけるイエズス会の拠点であり――この都市がなければ、あるいは日本でのキリスト教の布教の形は、そして天正遣欧使節の形は異なるものとなっていたかもしれない、そんな意味を持つ地なのです。

 そしてそこで水を得た魚のように知識吸収に努めていた晴信の前に現れたのは、我流の抜刀術を操る青年・アンジロウであります。
 …イエズス会でアンジロウといえば、マラッカでザビエルと出会い、彼の日本布教のきっかけとなった、日本最初のキリシタンの名前を思い出しますが、実はアンジロウはその孫。

 祖父の故郷である日の本のサムライに憧れる彼は、半ば強引に晴信の従者に志願するのですが、しかし桃十郎と張り合うまもなく、彼らが巻き込まれたのは、アンジロウたちが住む町を襲う奇怪な疫病でありました。
 その背後に潜み、奇怪な術を以て襲いかかるのは、なんとあのカーリーを信奉する暗殺教団・サッグ(タギー)団であった…

 という時点で、いかにも本作らしい冒険の舞台と敵の設定に胸躍らされるのですが、しかしこの巻で最大のサプライズは、桃十郎が出会ったある男の存在でありましょう。

 (桃十郎に匹敵する手練れたちに守られつつとはいえ)単身敵地に乗り込み、無数の暗殺者を前に泰然と構える男。初対面の桃十郎の心を動かし、あまつさえ自分のために動かしてしまう男。そして、桃十郎にとって運命の相手である織田信長を思わせる空気をまとった褐色の男。
 その男の名はアクバル! ムガル帝国の第三代皇帝にして、19世紀まで続く帝国の繁栄の基礎を築いた人物であります。

 なるほど、彼であれば、信長に匹敵する――いや、信長を超える傑物であるのも納得のいく話。桃十郎が「信長」に出会うというのは以前から予告されており、それは果たして何者かと思っていたら…いやはや、ここでこの人物を持ってくるとは、ただ納得というほかありません。

 思えば本作はこれまでにも、中国編のマテオ・リッチ、アユタヤ編のナレスワンと、同時代の――しかし日本国内に留まっていては決して会えない有名人を、いかにも少年漫画らしいアレンジを巧みに加えつつも描いてきました。
 そのいわば横方向の広がりは、戦国時代を背景としつつも、「世界」に飛び出し、スケールのドデカい冒険譚を描く本作最大の魅力でありますが、それにしてもムガルまでが登場するとは思いませんでした。

 晴信とアンジロウの出会い、桃十郎とムガルの出会い――この二つの出会いと、サッグ団との戦いがどのように絡むのかはまだわかりませんが、しかしこれまで同様、こちらの血潮が沸き立つような熱血活劇を見せてくれることだけは間違いありますまい。


 …と、早くも第10巻に期待を膨らませているとことではありますが、あまりにも残念なのが、次巻で本作が完結という告知。
 確かに、掲載誌自体が休刊になるとのことなので、やむを得ないことなのかもしれませんが、ここまで盛り上げてそれはあまりにも悲しい。

 もちろんあと一巻、心の底から応援させていただきたいとは思います。


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