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2014.04.10

「大妖怪」(その二) 人間と妖怪、この世界の住人同士の対決

 藤原審爾による、人間と妖怪の死闘の数々を描く短編集「大妖怪」の紹介その二であります。今回は、剣豪・修験者と強大な鬼女の対決を描く「黒風鬼女始末」、因幡の山中を騒がす巨獣たちと藩の討伐隊の死闘を描いた「怪異因幡大百足」を紹介いたします。

「黒風鬼女始末」
 美女に化け、次々と人々を襲う黒風鬼女。鬼女に息子を奪われた新免左馬之介は、吉野の大先達・超雲居士とともに鬼女に挑む。

 妖怪と一口に言っても様々な存在がおりますが、一種の巨大生物ともいうべきものが比較的多い本書の中で、本作に登場する黒風鬼女は、鬼の神通力と人間の奸智を兼ね備えた、超自然の怪物であります。

 一夜の宿を化した美女に惹かれ、彼女を妻にしてみれば、実は彼女は恐るべき鬼女で…というのは、これも昔話の定番ではありますが、すんでのところで逃れられる昔話と違い、本作はあくまでも容赦がありません。
 心優しき美女を装って人の家庭に入り込み、自分の正体に気づいた者を排斥し、餌食にしていく静の恐怖。そして正体が明らかとなるや、犠牲者に食らいついて臓物を撒き散らして暴れ回る動の恐怖――

 その恐怖に立ち向かうのが、これも超自然的力を身につけた居士というのは好みが分かれるかもしれませんが、それもまた、人間と妖怪の真っ向勝負を描くための趣向というべきでしょうか。
 何よりも、その緩急つけた恐怖描写には、ただ引き込まれるばかりなのです。


「怪異因幡大百足」
 異常に成長し、人を襲うまでになった大百足。討伐に向かった藩士たちは、百足だけでなく、もう一つの怪物とも対峙することに…

 様々な形で人間と妖怪の戦いを描いてきた本書ですが、その中でも屈指の迫力を誇るのが本作であります。

 本作に登場するのは、人間を襲うほど巨大な百足と…それに負けぬ巨躯を誇る大蛇。その常識外れのサイズを除けば、両者は超自然的な能力はなく、妖怪というよりもむしろ巨大生物というべきでしょう。
 そして百足も蛇も、我々にとってはお馴染みの存在ではあります。しかしそれが巨大化したとき、どのような動きを見せ、どのように敵に獲物に襲いかかるか、本作はどこまでもリアルに描き出すのであり――そしてその描写は、両者が身近なだけにより一層、迫真の恐怖を感じさせるのです。

 しかし本作に登場する人間も、襲われるのを待つばかりの存在ばかりではありません。二大怪物と対決するのは、藩の討伐隊。弓矢と鉄砲という、当時としてみれば最先端の武器を手にした彼らは決して無力な存在ではなく、(有効打を与えるのはなかなか難しいまでも)ある意味対等な存在といえます。

 巨大生物と武装した人間の正面切っての対決を描く本作は、むしろ極上の怪獣小説とすら感じられるものであり、その興趣は、両者の戦力が拮抗する(あまり強力な兵器が存在しない)この時代を舞台とするからこそ、より際立って感じられるのであります。
(ちなみに冒頭に描かれる、平和な民家の壁を突如ぶち抜いて大百足が襲いかかる場面は、「空の大怪獣ラドン」の名シーンを想起させます)


 そしてさらに印象に残るのは、ある意味皮肉さすら感じさせるその結末でありましょう。
 本作で描かれた戦いの全ては、あくまでも自然の則の内の、自然の営みの一つであると感じさせるこの結末からは、妖怪も人間も、ともに大自然の産物、等しくこの世界の住人であるという視点を感じさせます。
 そしてそれは、この結末に対する、人間の態度によって裏打ちされるのであります。


 残る二編は次回紹介いたします。


「大妖怪」(藤原審爾 文春文庫) Amazon

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