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2014.04.01

「丑寅の鬼 ゴミソの鐵次調伏覚書」 最終決戦、北の鬼と西の呪

 平谷美樹お得意の東北を題材とした時代伝奇小説の一つ、北から来た修法師・ゴミソの鐵次を主人公とするシリーズの最新巻であります。江戸で様々な亡魂を祓ってきた鐵次の前に幾度も現れた謎の傀儡使の目的がついに明かされるのですが――しかし、同時に鐵次の秘めたる目的も明かされるのであります。

 ある日江戸にふらりと現れた、様々な端切れを縫いつけた長羽織をまとった異装の男・鐵次。彼の稼業は亡魂や怪異を祓う修法師、端切れは祓った報われぬ亡魂から端切れを受け取り、鎮魂のために身につけているという、いかつい外見に似合わぬ(?)優しく熱い情を持つ男であります。

 江戸で意気投合した芝居作者の鶴屋孫太郎(後の五代目鶴屋南北)、妹弟子であり、彼の後に江戸に出てきた盲目のイタコ・百夜(「修法師百夜まじない帖」の主人公)とともに、様々な怪事件を解決してきた鐵次。
 これまでの作品では、鐵次たちの活躍を短編連作形式で描かれてきましたが、本作は冒頭の数話こそ短編的ですが、全体として見れば一冊の長編として構成されております。

 ここで描かれるのは、一つには、これまで幾度となく江戸に現れ、幾多の怪事を引き起こしてきた傀儡使・惣助の真の目的。様々な土地で、怪異の引き金となるような仕掛けを施し、一歩間違えれば大惨事となりかねぬ事件を引き起こしてきた彼の真意が、ついに明かされることになるのです。

 しかし本作で描かれるのは、それに留まりません。それと同時に語られるのは、鐵次と百夜が江戸に現れた真の目的なのであります。
 江戸の市井に暮らし、怪異を祓ってきた鐵次。その姿は修法師としてある意味自然であり、様々な地方からの人間が流入する江戸にあって、その姿から特に違和感は感じられなかったのですが…
 しかし、その存在に不自然さがなかったかと言われれば、なるほど、これまでの作中で、幾度か気になる表現があったのは事実。今回登場する鐵次と百夜の師・竣岳坊高星(平谷読者にはニヤリとできるネーミングであります)が語る彼らに与えられた使命の真実は、惣助のそれを遙かに上回る衝撃を与えてくれるのですが――

 この二つの真実の内容についてはもちろんここで詳しく触れませんが、江戸を挟んで激突する両者の決戦こそは、本作の、本シリーズの最大のクライマックスと呼んでさしつかえありますまい。
 先に述べたとおり、これまで短編を積み重ねる形で丹念に作品世界が描かれてきただけに、この決戦はさらに壮大なものとして、印象的であります。
(そしてまた、鐵次たちの目的は、これまでの平谷作品を読んでいる方であれば、強く頷けるものでしょう)


 …が、大げさに言えばその物語構造の変化が、いささか急に感じられたのもまた、事実ではあります。何よりも、高星をはじめとする、今回の新キャラクターたちの登場が――彼らが個性的であるだけ一層に――慌ただしく感じられたのは残念で、この急激さはある程度計算の上であったことは理解できるものの、やはりもう少しここに至るまでの分量が欲しかった、という想いはあります。

 そうではあるものの、鐵次と惣助の激突の中で、ともに超常の力を操りそれぞれの目的を秘めた両者の、しかし明確に異なる姿が浮き彫りになる構造は見事と感じます。
 何よりも、鐵次最大の個性が彼自身を救うクライマックスは、実に美しく――本シリーズの掉尾を飾るものとして、感服いたしました。


 掉尾、という言葉を使ってしまいましたが、本作の帯で「最終決戦」という言葉が使われており、内容もまさにその通りであることを考えれば、まず今回で一区切りということでありましょう。

 しかし…それであっても、「丑寅の鬼」ならぬ北の優しき修法師の活躍を、またいつか見たいと感じてしまうのは、これも正直な想いなのであります。


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