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2014.04.25

「からくり隠密影成敗 弧兵衛、推参る」 リストラ忍者から人間へ、ヒーローへ

 リストラされた根来忍者一の使い手・弧兵衛は、江戸の町で暮らすことを決意するも、生活力がなく乾上がる寸前。そんな中、破落戸に襲われていた少女・弓乃を助けた彼は、彼女と母親の千明が苦境に陥っていることを知り、力を貸すことを決意する。しかし事件の影にには意外な悪の姿が…

 先月発売された「あやかし秘帖千槍組」に続く、友野詳の時代小説第二弾が、本作「からくり隠密影成敗 弧兵衛、推参る」であります。
 タイトルからわかるとおり忍者ものではありますが、しかし一ひねりも二ひねりも加わった、何とも爽快かつ痛快な作品です。

 時は享保、将軍吉宗の命で御庭番が設置された煽りを喰らって隠密御用を外され、国に帰るよう命じられた根来・伊賀・甲賀の忍びたち。しかし、根来随一のからくり使いとして知られる男は、ある事情からこの命令を拒否して江戸に居残ることを決意します。

 自分も根来にその人ありと知られた男…という自負もあった男ですが、しかしほとんど忍びの世界だけで生きていたため、哀しいほどに生活力がない。
 行き倒れ同然となっていた彼は、美少女・弓乃が破落戸に襲われているところを助けたのが縁で、弧兵衛と名乗り、彼女が暮らす長屋の部屋に転がりこむこととなります。

 そこで弓乃の母・千明に一目惚れした弧兵衛は、母子が悪徳薬種問屋・沼田屋に苦しめられていることを知り、二人を助けようとするのですが…そこに現れたのは二人の忍び。
 その色気と秘術で男たちを骨抜きにする元甲賀のくノ一・したたりのお蜜と、剣を取らせたら無敵だが、どうしようもなくバカの元伊賀忍び・影斬り才蔵――

 それぞれ弓乃に一目惚れした二人とともに、沼田屋を成敗せんとする弧兵衛ですが、その背後には思いもよらぬ恐るべき敵の影が…


 というあらすじを見ると、なかなかハードな展開に見えるかもしれませんが、(もちろんそういう部分もありつつも)本作の基調となるのはコメディ。
 忍者としては凄腕ながらも生活力はからっきしの中年男がリストラされ、それでもなにくそと頑張って…というシチュエーションだけでも、何ともほろ苦くもおかしいのですが、そのほかのキャラクターたちの言動も色々と楽しいのであります。

 特に剣は滅茶苦茶強いが大馬鹿で××の才蔵や、あまりに善人過ぎて天然キャラの千明さま(余談ですが、この名前で天然キャラというのはなかなかやる、と感心)など、実に愛すべきキャラクターで、彼らのやりとりを見ているだけでも顔がほころびます。
 文庫書き下ろし時代小説は大人のライトノベル…という表現は、あまりポジティブなものではないかもしれませんが、本作においては、そのライトノベル的手法が実に良い形で活かされていると感じるのです。


 しかし本作の真骨頂は、そんな物語の中において、実に熱いヒーロー誕生劇を描いている点にある、と私は感じます。

 考えてみれば、忍びというのは――冒頭の弧兵衛の姿を通じて描かれているように――色々な意味で、真っ当な世界から外れたところに生きる存在(ちなみに、文庫書き下ろし時代小説の世界で忍者ものが少ないのは、まさにこの点によるものでしょう)。
 そして弧兵衛たち主役の忍者トリオは、そんな忍者の世界からもさらに外れることとなった、二重のあぶれ者と言うべき存在なのです。

 本作は、そんな彼らが、善意の、善き人間性の塊と言うべき母娘と出会い、彼女たちのために正義の味方になろうと決意する物語。そしてそれは同時に、非情の忍者として生きてきた彼らが、有情の人間として生まれ変わる姿でもあるのです。
 その原動力になるのが色恋というのは、一見ヒーローらしくないように見えるかもしれませんが、人間性を失っていた彼らにとって、純粋にそんな想いを抱ける相手の存在は、彼らの人間性回復の象徴というべきでしょう。
 だからこそ、クライマックスで立ち上がり、自分たちのネガともいえる敵に挑む彼らの姿は、最高に格好良く、痛快に感じられるのであります。


 もちろん、彼らの人間としての生はまだ始まったばかり。これからまだまだ山あり谷ありでありましょう。
 しかしだからこそ、そんな彼らの姿を見届けたい――是非とも続編に期待したい快作であります。


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コメント

オタク作家として有名な友野先生ですので、千槍組に関しては脳内のヴィジュアルはアニメーションで声優さんが演じている感じで書かれたそうですが、他のキャラは実写版で孤兵衛のイメージとしては竹中直人さんに近いとの事です。千明さまは栗山千明さん、お蜜は壇蜜さんだそうです。そのまんまですね(笑)。

投稿: ジャラル | 2014.04.26 22:03

ジャラル様:
その辺りのモデルのお話は、グループSNEのサイトにありましたね。
個人的には弧兵衛さんのイメージは牧冬吉さんでしたが…
そして、本文にも書きましたが、千明様を天然キャラにしたのはなかなか見事だと感心しました。

投稿: 三田主水 | 2014.05.05 21:33

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