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2014.04.04

「大江戸剣聖一心斎 魂を風に泳がせ」(その一) 剣聖、無名の人々を救う

 剣聖・中村一心斎が、周囲の人々を煙に巻きながら埋蔵金を求めて西へ東へ神出鬼没の活躍を見せる「大江戸剣聖一心斎」シリーズの第3弾が発売されました。惜しくもこれで最終巻ではありますが、一心斎先生の真の狙いが、ここでついに語られることとなります。

 剣を取っては超人…いや神のごとき強さを見せながらも、決して剣に拘泥せず、むしろ軽んじるような態度を見せる。犬はおろか熊にも好かれる不思議な魅力を持ち、しかし金には汚く、そしてちょっと助平で俗っぽさが抜けない――そんな中村一心斎が求めるのは、武田の埋蔵金をはじめとする、日本中に眠る埋蔵金。

 いかにもいかがわしい噂を頼りにどこからともなく現れては、偶然居合わせた人間を――それも勝小吉や男谷精一郎、大石進や鼠小僧次郎吉といった有名人たちを――巻き込み、あれよあれよという間にお宝をいただき、そして悩める者たちの心を晴らす…

 そんな一心斎先生の姿は、最終巻たる本作でも変わることはありません。本作に収録されているのは、旧版である「暗闇一心斎」の後半部分、「秘剣ふぐりほぐし」「妖怪七変化」「秘め事」「異国の空」「夕映えを斬る」「魂を風に泳がせ」「鳥のごとく、フライ」と全7編の短編ですが、そのいずれにおいても、このスタイルは基本的に貫かれ、一心斎先生の大いにとぼけた、しかしどこか優しく、そして清々しい活躍を楽しむことができます。


 …いや、本作においては、これまでと少々異なる点があります。それは物語の中で一心斎と出会い、救われる者の顔ぶれに、有名人ばかりではなく、無名の人々が入り混じることであります。
 暗殺者として利用され続けてきた娘、味気ない人生を堪え忍んできた侍、親友に裏切られ追われる身となった若者…と。

 本作にこれまで登場してきた有名人たちは、様々な形で屈託を抱え、少なくとも作中ではまだ芽の出る前の姿でありました。しかし、彼らにはこの後、輝かしい(少なくとも現代の我々にも知られる)「未来」があります。
 その一方で、本作に登場する無名の人々の
その後の人生は、たとえ一心斎の存在に救われたとしても、決して有名人たちのように残ることなく、歴史の中に消えていくことになるのであります。

 それでは、彼らが一心斎に救われたことに意味がなかったのか――それはもちろん、否であります。
 それではその意味は…長くなりますので、次回に続きます。


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