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2014.04.11

「大妖怪」(その三) そして戦いは歴史の一ページに

 人間と妖怪の真っ向からの激突を描いた藤原審爾の短編集「大妖怪」の紹介、今回でラストであります。残る二作品は、巨大な妖怪蜘蛛と人間の死闘の中に哀しき恋の姿が描かれる「妖恋魔譚」、巨大な海魔に家族を奪われた男と野生児の壮絶な復讐戦「篠乃隧道由来」であります。

「妖恋魔譚」
 かつて蜂害で滅びかけた村外れに住み着いた母娘。村の名家の男は、その娘と恋に落ちるが、母娘の正体は巨大な蜘蛛だった…

 巨大生物の猛威を描いた前作から一転、本作に登場するのは、年経りて神通力を得た巨大な人喰い蜘蛛の母娘。
 人間に化けて山中の村に住み着き、少しずつ周囲の人々を餌食にしていく――というのは、娘に人間の男が魅入られるという展開も含めて、先に紹介した「黒風鬼女始末」と重なる部分もあります。

 しかし本作の魅力の一つは、母娘の正体が暴かれて後(室内で正体を現し、巨大化した蜘蛛の脚が雨戸を吹き飛ばすくだりは、本作屈指の名シーンであります)、人間との攻防戦の緊迫感でありましょう。
 正体を暴かれた母蜘蛛が行ったのは、自らの糸で村の周りを覆う巨大な巣を作ること。すなわち、閉鎖空間となった村の中で、人々はいつ襲い来るかわからぬ巨大蜘蛛の猛威と戦うことになるのです。

 その一方で忘れてはならないのはもう一つの要素――タイトルにあるとおり、人間と異類の愛情であります。
 身を隠すための方便のはずが、本気で人間の男を愛してしまった娘蜘蛛。その想いの描写は比較的あっさり目ではあるのですが、しかしその結末の姿が、何よりも雄弁にその想いのなんたるかを描き出すことになります。

 そして種族の違いを越えた想いの存在は、これまの作品でも描かれてきたように、人間も妖怪も、等しくこの世界の存在であることを示すのでありましょう。
 その一方で、あまりに昔話的な結末には、むしろ苦笑させられるのですが…


「篠乃隧道由来」
 鳴門海峡近くに住み着いた男の運命を変えたのは、海に潜む巨大な怪物の存在だった。妻子を奪われた男と海魔の戦いの行方は…

 最後の作品であるる本作の時代設定は、明治時代。さすがにこの時代ともなれば、そうそう無茶なことはできまい…などというこちらの思いは、まったく嬉しい形で裏切られることになります。

 ある理由から海沿いの村に逃れてきた男が住み着いた、村外れの地。一見平穏に見えながらも、かねてから祟りの噂があるその地で、少しずつ、男の周囲で起こる奇怪な出来事が積み重ねられていきます。
 夜毎周囲を騒がす悲鳴めいた響き。何者かに荒らされた海沿いの畑。何かに吊り上げられたように夜の海に消えた長男。そしてついに男の前に姿を現す巨大な怪物の姿――

 それこそはまさしく海魔大ダコ。これもまた神通力を持たぬ、巨大生物ではありますが、そのサイズが並みではなく、実に頭の大きさだけで3、40メートル、怪獣とも言うべき存在なのです。

 一瞬にして全てを失った男に残されたのは、かつて妻が助けて以来家に居着いた山育ちの孤児のみ。かくて、二人の孤独な戦いが始まるのですが――
 正面からぶつかってはとても勝ち目のない相手に如何に挑むか、いやそれ以前に海に潜む相手を如何におびき出すのか? 幾つも積み重ねられる描写にまず痺れます。

 しかし本作の最大のクライマックスはその後に訪れます。大ダコに一矢報いたものの、まだ終わらぬ戦い。ついに上陸した怪物と対決するのは――いやはや、あるいはこのためにこの時代を舞台にしたのか、とすら感じさせられる、とてつもない展開。

 そしてその死闘を、「歴史」の一ページとして静かに収める結末も美しく、本書の掉尾を飾るにふさわしい作品と申せましょう。


 以上6編、いずれもそれぞれに趣向を凝らした作品揃い。それも外連味に加え、地に足の付いた――それはもちろん物語を矮小化するものではなく――人間描写も相まって、短編ながら、それぞれが実に内容の濃い作品として成立しているのであります。

 妖怪ファン、そして怪獣ファンであれば必ず手にしていただきたい、そしてそれだけの価値がある作品集であることは、この私が保証いたします。


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