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2014.04.15

「乱丸」上巻 天下布武の子の忠義と狂信

 織田信長麾下の名将・森可成の三男として生まれた乱丸は、早くに父と長兄を失いながらも、自らを「天下布武の子」と信じて、信長に仕えることを夢見る。その美しさと聡明さで、十三歳で信長の近習として仕えることとなった乱丸は、憧れの万見仙千代の指導の下、頭角を現していく乱丸だが…

 主に戦国時代を舞台に、骨太の歴史活劇を描いてきた宮本昌孝の最新刊は「乱丸」。信長の小姓としてその最期の時まで信長と運命を倶にした森乱丸(乱丸)の生涯を描いた大作であります。

 信長がうつけ者と呼ばれていた時代から彼を支え、父親のように頼みとされていた驍将・森三左衛門可成の三男である乱丸は、幼い頃から抜群の記憶力と鋭敏な感覚で周囲を驚かせてきた少年。
 早くに父と、最も敬愛していた兄・伝兵衛を失った彼は、それでも主君・信長に仕えることを夢として、育っていくことになります。

 というのも彼は幼い頃より父から、信長に天下布武の志が生まれたのと同じ年に生まれたと言い聞かされ、自らを「天下布武の子」、すなわち信長の天下布武の理想に殉じるのが使命と信じていたから。
 かくて、わずか十三歳にして信長の近習として仕えることとなった乱丸は、次々と手柄を上げ、信長にとってなくてはならない存在となっていくことになります。


 時代小説デビュー以来、強い伝奇的趣向を特徴の一つとする作者ですが、本作はその色彩はかなり薄めであります。
 幼い頃に彼と因縁を持ち、以降、彼と信長の前に幾度となく現れ、暗い影を落とす盗賊・石川五右衛門の存在を除けば、ほぼ史実に忠実に物語が展開していく、歴史小説としての性格がかなり強い作品であります。

 そしてそこで描かれるのはもちろん乱丸の成長物語ではありますが――実は本作の乱丸は、幼い頃からかなり完成した人物として描かれるキャラクター。
 憧れの人物であり、お役目の上での先輩でもある万見仙千代の指導もあるものの、気働きの点では大人顔負け――というより既に作中有数のレベルとして描かれます。あまりによくできた人物すぎて、できないおっさんである私などは読んでいて何だか厭な汗が出てきたのですが…というのはさておき。

 この辺りの乱丸の描写には賛否が分かれそうなところではありますが、この上巻の後半に向かうにつれ、乱丸のキャラクターは、さらに尖ったものとなっていきます。
 己の敬愛する人物、手本とするべき人物を失った乱丸に残されたもの――それは信長に対する忠義の念。
 その思いは、少年特有の一途さと相まって、現代の我々にとっては「狂信」としか感じられぬレベルにまで高まっていくことになります。


 完璧さと危うさと――それはある意味、彼の主君たる信長にも通じるものがありますが、この主従がこの先どのような運命を辿ることになるのか。
 結末はある意味見えているわけではありますが、そこに至るまでに何が描かれるのか――乱丸がこのままのキャラクターで済むはずはないと思いますが、その辺りにも期待したいと思います。


「乱丸」(宮本昌孝 徳間書店) Amazon
乱丸 上 (文芸書)

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