« 「SAMURAI DEEPER KYO」応募者全員サービス下巻 そして受け継がれたもの、残ったもの | トップページ | 「戦国SAGA 風魔風神伝」第5巻 二つの死闘、さらば風神 »

2014.04.13

「騒擾の発 お髷番承り候」 情報戦と流される主人公と

 徳川第四代家綱の時代、次期将軍の座を巡る骨肉の争いに巻き込まれた家綱の寵臣、お髷番・深室賢治郎の苦闘を描く「お髷番承り候」の第8弾であります。いつまで続く争いか、暗闘を繰り返す紀伊・甲府・館林に対して、老中・阿部豊後守が取ったある手段が、賢治郎までも巻き込むことに…

 いまだに跡継ぎのいない家綱の後を狙い、水面下で醜い争いを繰り広げる館林綱吉と甲府綱重の両勢力。さらにそこに紀伊頼宣が不気味な存在感を見せ、さらに老中ら幕府重職が勝ち馬に乗るべく暗躍する…
 という相変わらずの本シリーズの構図に一石を投じたのは、今や唯一の家綱派ともいうべき、阿部豊後守であります。

 江戸城中で流れ始めた、家綱の御台所懐妊の噂。将軍に世子が生まれれば、当然それが次代の将軍であり、それは言うまでもなくこれまでの権力を巡る構図を根底から揺るがすことになります。
 その報に震撼する者、それを利用しようとする者、非常手段に出ようとする者――様々な思惑を秘めた者たちが、しかしまず確かめなければならないのが、その真偽です。

 そしてそこで目を付けられたのは、家綱に最も近いところにあり――そしてその気になればアクセスしやすい賢治郎であります。
 そこで接近してきたのは、これまで幾度となく暗闘を繰り広げてきた――しかし実はこれが初対面の――甲府派の用人にして剣の遣い手・山本兵庫。力ずくでも口を割らさんとする兵庫に対し、賢治郎は一刀を以て立ち向かうのですが…


 というわけで、ほとんど一冊を使って描かれるのは、御台所懐妊の報に翻弄される人々の姿であります。なるほど、将軍後継を狙う者たちにとっては、この噂は青天の霹靂。その真偽を巡る人々の動きは――何しろ将軍家綱ですら、それを知る術がないというのが実に面白い――ほとんど情報戦の域に達しており、それが本作の面白さであることは間違いありません。

 そして本作では、その仕掛人たる阿部豊後守が、ほとんど主役級の存在感を以て立ち回るのがまた実に面白いのですが――問題は、本当の主役であるはずの賢治郎が、この渦中に巻き込まれてもがいていることでしょう。
 これは作中でも登場人物にはっきりと指摘されていることではありますが、あまりにも状況に流されてばかりの賢治郎。確かに、常人であれば流されても仕方ないような環境ではありますが、しかしやはり主人公としてそれでは――しかも第8巻まで来て――ちとまずいように思います。

 物語の内容的にもそろそろ一区切りついても良い印象ではありますが、さてそれまでに賢治郎がどのような成長を見せてくれるのか…その前に大変なピンチが迫っておりますが、さて。


「騒擾の発 お髷番承り候」(上田秀人 徳間文庫) Amazon
騒擾の発: お髷番承り候 八 (徳間文庫)


関連記事
 「お髷番承り候 潜謀の影」 主従の孤独な戦い始まる
 「お髷番承り候 奸闘の緒」
 「お髷番承り候 血族の澱」 支配者の孤独、支える者の苦闘
 「傾国の策 お髷番承り候」 権力に対する第三の道
 「寵臣の真 お髷番承り候」 寵臣として、人間として
 「鳴動の徴 お髷番承り候」 最強の敵にして師
 「流動の渦 お髷番承り候」 二つの骨肉の争いの中で

|

« 「SAMURAI DEEPER KYO」応募者全員サービス下巻 そして受け継がれたもの、残ったもの | トップページ | 「戦国SAGA 風魔風神伝」第5巻 二つの死闘、さらば風神 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/59458213

この記事へのトラックバック一覧です: 「騒擾の発 お髷番承り候」 情報戦と流される主人公と:

« 「SAMURAI DEEPER KYO」応募者全員サービス下巻 そして受け継がれたもの、残ったもの | トップページ | 「戦国SAGA 風魔風神伝」第5巻 二つの死闘、さらば風神 »