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2014.04.23

「大正空想魔術夜話 墜落乙女ジヱノサヰド」 この世の軛を打ち砕く悪人ヒロイン見参

 大正11年(1922年)の帝都を騒がすのは、人々を次々と襲う異形の怪物・活キ人形と、魔術を用いてそれを無惨に叩き潰す美少女・墜落乙女。偶然その正体が華族・蓋シ野家の長女・サヱカであることを知った少年記者・賜ヒ野乱歩は、彼女に独占取材を申し込む。乱歩が見た「悪人」墜落乙女の素顔とは…

 新刊情報でタイトルを見たときから気になっておりました本作、蓋を開けてみれば、大正の帝都を舞台に邪悪な魔法少女と奇怪な自動人形の群れが血みどろの激闘を繰り広げる、何ともユニークな活劇であります。

 どこからともなく現れては人間を襲い、殺傷する怪物・活キ人形――謎の「人形座座長」に操られるそれは、桐製の人形ながら正体不明の動力で動き、自分の意志を持ち、血を流す存在であります。

 そして、その圧倒的な戦闘力の前に警察も手をこまねいていたところに現れたのは、真っ赤なドレスに身をまとい、空から墜落するような身のこなしで現れる「墜落乙女」。
 次々と活キ人形を屠っていく彼女は、しかしその残虐無比で手段を選ばない戦闘スタイルにより、人々からその敵以上に忌まわれるのでありました。

 そんな彼女の正体を掴んだのは、帝都日日雑報の少年記者・賜ヒ野乱歩。戦闘後の墜落乙女を追い、その変身を解いた姿を目撃した彼は、それを口外しない替わりに、彼女――蓋シ野サヱカの独占取材権を得ることになります。
 そして、彼女や活キ人形の正体以上に乱歩の心を占めるのは、彼女が「悪人」たる理由。自分自身「悪人」であることを隠そうともしない彼女の心に近づいていく乱歩ですが、二人を思わぬ罠が襲うことに…


 身も蓋もない言い方をしてしまえば、大正時代を舞台とした「魔法少女」ものである本作。
 「魔法少女」という存在が、そのイメージほど正しく美しいものでなければ、楽しい役目でもない――という内容は、近年ではもはや一種定番となってしまった感がありますが、それを大正時代を舞台にして描いてみせたというのはやはり面白い。

 墜落乙女の名の由来となったアクションも、彼女の能力が、自分を含めた全ての物体の質量を自由に操る重力制御であるという点を活かしたもので、バトル描写のバリエーションも豊富でなかなかに楽しめます。

 しかしそれ以上に印象に残るのは、やはり彼女のキャラクターでしょう。
 一見清楚な外見に似合わぬ妖艶な表情を浮かべ、血みどろになりながら、残虐無比に活キ人形を叩き潰す。その性格もまた傲岸不遜、人を人とも思わぬドSぶりに、主人公の乱歩少年(名前に特に意味はないのが残念)は散々振り回されるのであります。

 どちらかというと受け身の主人公を散々振り回す唯我独尊ヒロインというのも一定型ではありますが、本作においては、その彼女のキャラクターの根本が、同時に物語の中心に存在する謎に繋がっていくのもまた、なかなかによくできていると感じます。


 しかし残念に感じてしまったのは、個人的に大正時代を舞台にした作品を読む時に一番気になる、大正時代であることの必然性が、今一つ弱い点であります。

 確かに、この時代を舞台にする理由は明示されるますし、そしてそれ自体はなかなか面白い。しかしそのロジックは、少しいじれば、現代を舞台にしても成立可能なものになってしまう――というのは意地悪が過ぎるかもしれませんが、少々パンチが弱いのは事実でしょう。

 とはいえ――舞台となる大正という時代が、一見、現代にある程度近い文化・社会を持つようでいて、その根幹にあるものは、明確に戦後民主主義とは異なるのは事実。
 そして本作で描かれるのは、まさにその根幹の部分によって悩み、苦しめられる人間の姿であり…「悪人」墜落乙女は、その軛から解き放たれ、打ち砕く存在なのでしょう。

(最も、やはり大正を舞台とする最大の理由は、そのビジュアルイメージにあるように思いますが…)

 物語の構成自体はかなりシンプルではありますし、特にクライマックスの展開は、登場人物たちの背負ってきたものを考えれば、もう少し描き込んでもよいようにも思いますが――この世の軛を粉砕する「悪人」ヒロインの存在は、それでももちろん、痛快でなかなか魅力的に感じられるのです。


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コメント

最初はあらすじ読んで「大正グランギニョール」ものかと思いきや、魔法少女でしたというのに少しのけぞりそうになりましたね。まあ、グランギニョールではあるのですが。魔法少女の必殺仕置き人製造って辺りがぶっ飛んでいますが。大正というと「封殺鬼」がどうしても印象が強くてなぁ。後は「書生葛木信二郎の日常」とか。こうしてみると大正時代は「狭間の時代」なんですよね。魔法少女ものに「仕置き人」的なテイストを盛り込んだという意味ではこの先が少し楽しみではありますが。「中村主水」が「墜落乙女」のお祖父様で昔話を聞いた事があるから正義がどうこうなどと言えないのですとかいう一幕あったら面白そうだ。主水の孫娘。なんか合いそうだな。「この世の報われぬ思いと、恨み辛みをはした金で請け負って恨みを晴らし、世の闇を人知れず斬り続け、維新の荒波を生き抜いた祖父を持つ私が、あのものの様な浅はかで卑しい誤魔化しなどに身を任せてたまるものですか」とか言ったら似合いそうだ。
 しかし、この当時はまだ宮内庁も相当力あった筈。そういう所の介入とかがあってとかいう描写位あってもと思えます。帝都の霊的安定を乱す「墜落乙女」と「人形座座長」を共に討つべしと乱入する少女陰陽師と神速の一撃を放つ女山伏が加わって乱戦状態とかあっても良かった様な。次巻で出たら面白いけど。まあ、頑固者同士の奇妙な魔都道中の次なる物語は? と待ってみる気にはなりました。

投稿: almanos | 2014.04.26 20:02

almanos様:
いやはや、本当に魔法少女ものとは予想外でしたがなかなk面白い作品でした。

おっしゃるとおり、大正ものの魅力はまさに大きく時代が変わっていく狭間の時代という点にあるのだと思います(全ての大正ものがその辺りを描けているとは言い難いのではありますが…)

ちなみに「封殺鬼」に大正編があるのは恥ずかしながら知らなかったので、いずれ読んでみたいと思っています。

投稿: 三田主水 | 2014.05.05 21:30

>ちなみに「封殺鬼」に大正編があるのは恥ずかしながら知らなかったので、いずれ読んでみたいと思っています。

「封殺鬼―花闇を抱きしもの」ですね。神島桐子誕生秘話というべき作品です。小学館文庫から出たのを読んだのですが、ルルル文庫から再刊されたみたいです。小学館文庫のも再刊して欲しいんですけどね。

投稿: almanos | 2014.05.10 23:08

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