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2014.05.04

「長州シックス 夢をかなえた白熊」 融通無碍で生真面目な荒山幕末史

 先日、三越に買い物に出かけた我が国の首相が買った本の中に含まれていたことで(一部で)話題になった、荒山徹の幕末を題材とした短編集であります。そのタイトルもさることながら、羽織袴姿の白熊という表紙に驚かされる本書ですが、その内容もまた、なかなかもって一筋縄ではいきません。

 本書に収録されているのは、2009年から13年にかけて、「小説現代」誌に不定期に掲載された以下の5つの短編であります。

 幕末に密かにイギリスに渡ったいわゆる長州ファイブにもう一人加わっていた男の奇想天外な後半生が語られる「長州シックス 夢をかなえた白熊」
 富山から英語を学ぶために江戸に出てきた男の必死の学習法が意外な結末を招く「ウルトラ・ダラー 幕末英語教育事始」
 蛤御門の変で両手両足を失い芋虫のような姿になった末に軍神と呼ばれるようになった男「シュニィユ 軍神ひょっとこ葉武太郎伝」
 福沢諭吉の門下生を中心に、不思議な襦袢を巡る仇討ち奇譚に振り回された人々の姿を描く「トゥ・バ・ビヤン 腰撫で襦袢伝奇」
 維新の烽火となりながらも悲惨な運命を辿った天誅組の乱と、五箇条の御誓文の意外な繋がりを描く秘史「ファイヴ・アーティクルズ 維新の魁」

 各作品については個別には触れませんが(その中でも特に大変な「長州シックス」「シュニィユ」については雑誌掲載時に取り上げております)、共通するのは、個々のタイトルを見ればわかるように、程度の差こそあれ、どの作品も一種のパロディとなっている点でありましょう。

 もともと作者の作品は、題材や物語展開の過激さと並んで、そのパロディセンス――時に、何故このネタをここで、と唖然とするような――が特徴の一つでありますが、本書の収録作の多くを彩るのはまさにそれ。
 お得意の朝鮮ネタを封印しても、荒山節は健在なり、と言うべきかと思いますが、パロディによって切り取られる歴史の一幕は、時に、お堅い作品以上に、その意味を良く伝えてくれるように感じられるのであります。

 本書の作品の多くで描かれているのは、幕末の動乱の中、理不尽な運命の前に無名の人々が翻弄されていく姿。
 それは幕末という時代においては珍しくもない出来事であったのかもしれませんが、しかしパロディで以て切り取られた物語は、ディフォルメされた異形であるからこそ、より鮮烈に彼らの姿を――すなわち、一見華やかで感動的な幕末という時代の裏側を――描きだすのであります。

 そしてそんな幕末の裏側を、ほとんどパロディなし、ネタ抜きに真っ正面から描いたのが、ラストの「ファイヴ・アーティクルズ」です。
 五箇条の御誓文が六箇条とならなかった理由こそ、「伝奇的」ではありますが、しかし本作で描かれるのは、副題通り維新の魁となりつつも、時運に乗れず、朝敵として滅ぼされた天誅組の悲劇。

 その気になれば長編一本が書けるような題材を、巧みに配置された人物を通して、短編で過不足なくきっちりと描いてみせるのは、これは作者の筆力ゆえ。
 パロディ抜きでも見事に物語を成立させてみせる、作者の地力が最も良く現れた作品であり――そして他の作品が奔放に(もちろん上で述べたように優れた視点を持ちつつも)描かれてきただけに、ラストを見事に締めてみせた、という印象があります。

(余談ですがこの構成、それまで極めて真面目な内容が並びつつ、ラストで大爆発した「サラン」とは正反対で、逆「サラン」とでも呼びたく感じます)

 時にパロディを通じて融通無碍に、時に真っ正面から生真面目に、時代に翻弄された人々の姿を描いてみせた荒山幕末史とも言うべき本書――どの作品も極めて作者らしい作品であり、そしてどの作品も時代小説家、歴史小説家としての作者の目と腕の確かさを示すものであると、一冊通して読むことで再確認した次第です。


 いや、さすがに表題作はどうかな…


「長州シックス 夢をかなえた白熊」(荒山徹 講談社) Amazon
長州シックス 夢をかなえた白熊


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