「水滸伝 伏龍たちの凱歌」(その一) 好漢たちのオリジンと掘り下げと
久々に水滸伝ネタの一冊を。実にほぼ19年前に発売された吉岡平による水滸伝外伝集「水滸伝 伏龍たちの凱歌」です。本編では語られなかった梁山泊の豪傑たちのオリジンを語る全四話の短編集である本作、作者が作者だけに、なかなかにツボを突いた内容であります。以下、全話紹介いたします。
「彫師」
まず第一話は九紋竜史進のトレードマークとも呼ぶべき背中の刺青にまつわる物語であります。
史進は原典でも一番最初に登場する好漢であり、その意味ではここでわざわざ取り上げる必要はないのでは…と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、しかし彼はその後の活躍がどうにも微妙なキャラクター。ここでその人物像を補強しておくのは、故なきことではありますまい。
武術の師匠であった李忠の薦めで、開封東京府一と謳われる彫り師・墨尹を尋ねた史進。刺青を入れるみかわりに墨尹が史進に対して出した条件とは、ライバル彫り師を…
という本作、物語の展開的には先の予想はつくものの、武侠もの的味わいのある内容は、いかにも原典の語られざる物語といった趣向で実に楽しい。
何よりもキャラクター配置が面白く、史進の相棒的立ち位置に、武術では劣るものの、世知に長けた李忠を設定しているのが実にいい(考えてみれば、彼も地サツ星では最初に登場するものの、ずいぶんと微妙な立ち位置のキャラクターではあります)。
さらに終盤には(名前は伏せますが)刺青といえばもう一人この人、という人物がサプライズ出演してくれるのが嬉しい。
原典では行ったことがないにも関わらず、何故か東平府で彼の馴染みという設定だった李睡蘭を、都で賊に襲われていたところを史進に助けられる役どころで登場させるのも面白く、本書の冒頭を飾るにふさわしい作品でありましょう。
「銀の魚」
作者の見たところでは、後半の四寇での勝利に最も貢献した好漢である李逵…ではなく、その脇を固めた李袞・項充・樊瑞・鮑旭にスポットを当てた、ユニークな一編。
項充と樊瑞については、横山光輝水滸伝で外伝に登場した例はあるものの、李袞や、特に鮑旭が取り上げられるのはなかなかに珍しいことでありましょう。
物語としては、地主の不良息子だった李袞が、飛刀投げの旅芸人だった項充と出会って意気投合、村を襲ってきた樊瑞と対決するも、妖術に敗れて仲間に入る…
というオリジン自体は――そこに彼らの獲物をかすめ取る鮑旭が絡むのは面白いものの――さまで珍しいものではありません。しかし本作の楽しさは、登場する彼ら一人一人のキャラクターがきっちりと書き込まれている点であります。
これは一見当たり前に見えるかもしれませんが、原典の時代の作品では、むしろそうでないのが当たり前のような話、特に本作に登場するような脇役においては、なおさらであります。
その辺りをなおざりにせず補強してみせた点は、やはり本作の魅力というべきでしょう。
残り二編は、次回紹介いたします。
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