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2014.05.15

「水滸伝 伏龍たちの凱歌」(その二) コンビ/ライバルたちの知られざる物語

 吉岡平が、比較的にマイナーな好漢たちにスポットを当てた水滸外伝集「伏龍たちの凱歌」の紹介の後半であります。今回は設定的には面白いものの、原典ではほとんど活躍できなかった二組のコンビが主役を務めることとなります。

「火攻水守」
 冒頭に述べられた、梁山泊にはトリオは多いが兄弟以外のコンビは少ない…というなかなかユニークな指摘から始まる本作の主人公は、タイトルを見れば想像がつくように、神火将魏定国と聖水将単廷珪です。
 この二人、その実に格好良い渾名が示す通り、片や火計の使い手で赤い装束に身を包み、片や水攻めの使い手で黒い装束(五行思想で水を象徴する色は黒)に身を包み――そして二人コンビで常に行動する好漢であります。
 が、この二人、原典では正直に申し上げて名前倒れの印象。七十回本終盤の官軍入山ラッシュの中で慌ただしく入山して以降、あまり印象的な活躍はなく、特に単廷珪はその設定にもかかわらず、作中で水攻めを使用することはなし…

 そんなあまりに勿体ない二人を描いた本作で語られるのは、ともに凌州の団練使を務めながら、二人が犬猿の仲だった頃のお話。
 とにかく仲の悪い二人に手を焼いた上司が一計を案じ、兵糧の配分などをわざと曖昧なまま送り出した先は(この上司、地味ながら非常にやり手であります)、曾頭市攻め!
 かくて火水二将と、迎撃に討って出た曾家五虎の四男・曾魁との激突が繰り広げられることになります。

 クライマックスの展開自体はまず予想通りですが、やはりそこに至るまでの二人のキャラクター描写が面白く、原典での勿体ない感が払拭…とは言わないまでも、かなり補われた印象があります。


「智将巧将」
 最後に控えしは、原典でも百八星のうちでほとんど最後に入山した、そしてその個性的な造形の割りには(何よりも日本のリライトでの)出番が少ない張清と董平――その特に前者を中心とした物語であります。

 少年の時分からライバルとして切磋琢磨しながら成長してきた二人。しかし董平が文武に優れた天才肌であるのに対し、張清は努力派の秀才タイプであり、なかなか追いつけぬまま、董平は東平府に仕官し、張清は東昌府に仕官して離ればなれとなります。

 と、そこで投げ槍を得意とする無頼漢・キョウ旺を捕らえた張清は、彼の何気ない一言がヒントで礫投げに開眼し…

 と、物語前半は、本作独自のオリジンが語られますが、後半は原典の梁山泊を向こうに回しての張清の活躍がほぼそのまま描かれることになるのですが…
 そもそも二人が梁山泊と対峙することになった理由は、宋江と盧俊義のどちらが頭領となるかを決めるために、それぞれ東平府と東昌府を攻めたため。しかし本作においては、それをちょうど裏返しにしたように、董平と張清の側でも、どちらが梁山泊を破るかで、互いの勝負をつけようとしていたという設定が加えられているのがなかなか面白いところでありました。

 ラストでは張清といえばあの人、の存在もちらりと匂わされるのも心憎いところです。

 ちなみに本作の董平は、先に述べたとおり終始張清の一歩先を行くライバルとして実に格好良いのですが――
 あまりにも格好良いと思ったら、我が国で彼の悪名を轟かせることとなった彼の入山の経緯が丸ごと削除されていたのでありました。そりゃ格好良く見えるはずです。


 というわけで全四編、水滸伝ファンであれば歯がゆく思っていた部分を補完するようななかなかの好編揃いでありますが、一点気になるとすれば、その語り口。
 本書に収録された各作品は、いずれも現代の作者(読者)の視点から語られており、現代から振り返っての水滸外伝というべき内容となっているのであります。地の文に横文字も多用されており、この辺りはムードが崩れると感じる方も少なくないのでは…とは感じた次第です。


 しかし、本書の刊行から19年経った今でもなお、同様の企画がほとんど存在しない状況を何と言うべきか…というのは水滸伝マニアの繰り言でありますが。


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