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2014.05.05

「ますらお 秘本義経記 悪鬼の章」 美しく歪な義経、甦る

 本年になって突如18年ぶりに「コミックアワーズ」誌上で復活した北崎拓の「ますらお 秘本義経記」。その過去が、このたび全3巻の廉価版コミックとして刊行されました。今回紹介するのはその第1弾「悪鬼の章」であります。

 本作は、そのサブタイトルから明らかなように、源義経を主人公とした歴史漫画。1994年から1996年にかけて「週刊少年サンデー」に連載された作品です。

 この「悪鬼の章」に収録されているのは、義経(遮那王)が鞍馬寺を脱走し、伊勢三郎、常陸坊海尊らを仲間に加え、武蔵坊弁慶と五条の橋の上で出会った辺りまで。
 義経を鞍馬寺から連れ出し、源氏復興の旗印として利用せんとする謎の男「天狗」の存在や、義経が少年の頃に既に静と出会い、宿敵となる平維盛と対峙していた――といった趣向はあるものの、物語的には、よく知られた源義経の生涯から、さまで大きく外れたわけではありません。

 しかし本作が、他の義経伝に比べて強烈な印象を残すのは、その絵の持つ力でありましょう。
 本作における――少なくともこの「悪鬼の章」の時点の――義経は、触れる者皆傷つける刃めいた存在感を持つ少年と言いましょうか…心の中に抱えた満たされぬもの、孤独感や虚無感といったものが、そのまま他者に向けられたような、そんな飢えた狼のような、強烈な印象を残すのであります。

 実は、恥ずかしながら私が本作を読んだのは雑誌連載時以来、すなわち20年ぶりですが、この餓狼義経の存在感は強く印象に残っており、そしてその印象がこちらの記憶違いでなかったことを、今回再読して確認した次第です。
(特に本作の義経は、延々と鞍馬山で周囲から虐げられ、追い詰められ、戦い続けていた印象があったのですが、それもあながち間違いではありませんでした)

 本書の表紙に付された惹句は「日本漫画史上最も美しく歪な義経、ここに出陣す!!」。
 もちろん全ての義経もの漫画をチェックしたわけではないので、本当に「史上最も」であると断言はできませんが、しかしこれはかなりの程度真実ではありますまいか。
 少なくとも本作の義経が非常に「美しく歪な」存在であることは間違いないのですから…


 さて、冒頭に述べたように、18年ぶりに復活した本作。
 惜しくも18年前は壇ノ浦やそれ以降の義経北行は描かれずに連載終了してしまったのですが、今回の復活(といってもシリーズ連載のようなのですが…)によって、その生涯最後の時まで描き切って欲しいものです。

 本作の義経が、最後まで美しく歪んだままであったのか…それを見届けたいのです。


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