「剣と旗と城 旗の巻」 揃った役者が向かう先は
応仁の乱後の混沌たる都周辺を舞台に、様々な人間群像を描く柴錬の「剣と旗と城」の第2巻であります。序破急でいえば破に当たるこの巻では、前の巻から3年を経て様々に登場人物たちが運命を変えた中、いよいよ物語が大きく動き出すこととなります。
夢も希望もなく戦場から戦場へ渡り歩いていた傭兵牢人・眉間景四郎が、数奇な運命の果てに、平家の落人集落・手鞠の里の人々を手勢に、京の大商人・石の長者の財力を背景に旗揚げして三年――
かつて彼とすれ違った高貴の生まれの青年・小松重成は、3年の漂泊の中で磨いた見事な軍略を武器に、家を滅ぼされた姫君を守って立ち上がることに。
一方、上洛して天下に号令をせんとする北陸の梟雄・津雲秀郷はその第一歩として近江に兵を進め、景四郎の拠る陀羅尼谷の山城を狙うことになります。
そして彼らの戦いは、名家の智将として知られながらも、業病で余命幾ばくもない大江近江守忠近の城と兵を巡り、大きく動いていくこととなります。
さらに、老将に守られ、陰謀渦巻く都を脱した幼い帝もまた、漂泊の旅を続けることに…
第1巻の時点で多士済々、個性的なキャラクター揃いだった本作でありますが、この第2巻において、戦国大名の一典型とも言うべき――そしておそらくこれから先、景四郎か重成のいずれかが雌雄を決するであろう津雲秀郷の登場により、ついに役者が揃った、という印象があります。
特にこの巻では、秀郷と大江忠近、新登場の二人が中心となって物語を大きく動かした感がありますが、もちろん物語の冒頭から登場している面々もまた、ある者は決起し、ある者は相変わらず放浪を続け、またある者は陰謀を巡らし…と、さながら人間模様の一大曼荼羅のような様相を呈することとなります。
その中には、戦う男たちだけではなく、それに翻弄される女たちも数多く登場するのですが――婉曲な表現を用いれば、女性読者を想定していないような彼女たちの扱いは(いかに執筆時期が時期とはいえ)いかがなものかと思いつつも、しかし彼女たちにもそれぞれの個性と運命が用意されているのは、作者の筆の冴えと言えるでしょうか。
(その中でも、怪女としか言いようのない動きを見せる忠近の母・葛城の存在感はあまりにも強烈なのですが…彼女を並みの女性と呼んでよいかは大いに疑問が)
そして、本作の主人公たるべき景四郎が、この巻においてはこうした女性たちの間で大いに翻弄――自業自得の面が多々あるとはいえ――されるのもまた、柴錬作品の常と呼ぶべきでありましょうか。
さて、そんな物語のうねりの中にまだ本格的には絡んでいないものの、おそらくはこの先の台風の目となるであろうと思われるのが、幼き帝の存在。
乱世に覇を唱えんとする者にとっては、またとない「旗」印となる彼を誰が奉じ、そして己の「城」を打ち立てるのか――
残すところはわずか1冊、そこで物語がどのような結末を見せるのか、まったく予想がつかないのですが…それだけに、大いに楽しみであるのも、言うまでもないことであります。
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