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2014.05.27

八犬伝特集その十七 こぐれ京「南総里見八犬伝」

 久々の「八犬伝」紹介であります。今回取り上げるのは、児童向けレーベルである角川つばさ文庫から刊行された、こぐれ京による「南総里見八犬伝」であります。分量的にはわずか一冊ではありますが、これがなかなかに油断できない快作なのです。

 実は本作に先立ち(と言うべきか)、作者が同じレーベルから刊行していたのが、八犬伝の現代パロディとも言うべき「サトミちゃんちの8男子」シリーズ。してみると本作は、その遅れて出たオリジンとも言うべきかもしれませんが、もちろん独立した八犬伝リライトとして楽しめることは言うまでもありません。

 さてその内容ですが…これが驚くほど原典に忠実であり、そして原典の見せ場を網羅しているのであります。
 これは当たり前のように感じられるかもしれませんが、しかし最初に述べたようにわずか一巻ものの児童文学という点から考えれば、決して容易いものではありますまい。

 さすがに後半部分は、管領戦をごくわずかに残して大幅にカットされておりますが、むしろ八犬伝リライトにおいて、そうでない方が極めて珍しいので、これは当然許容範囲と言うべきでしょう。

 しかしそこに至るまでの物語、犬江親兵衛を除く七犬士が次々と登場し、それぞれの冒険を繰り広げる部分においては、ほとんど描きあげ、芳流閣の決闘に刑場破り、毛野の仇討ちに庚申山の怪異など、有名な場面ももちろんきっちりと盛り上げてくれるのが嬉しい(直接的な描写がないのは、道節の火定くらいではないかしらん)。

 限られた分量でこれを可能としているのは、八犬士以外のキャラクターを大胆にカットしている点はあるかと思いますが、しかしそれ以上に巧みに――作品のイメージを変えるほどではなく――作中の出来事の順番を入れ替え、整理して見せている点にあるでしょう。
 おかげで、お馴染みの物語でありつつも、なかなか新鮮な気分で読むことができたのですが、これはまあ、余禄かもしれません。


 もちろん、あくまでも子供向けの作品ゆえ、浜路口説きのシーンなどはずいぶん現代的ですし(それでもあることに感心)、船虫のキャラクターも、特にその末路などかなりアレンジされている部分はあります。

 アレンジといえば、八犬士の人物像自体も相当に現代的な脚色が為されており(特に道節と荘介)、この辺りは好みは分かれる点でありましょう。

 …が、本作の心憎いのは、そんな大人のウルサい視線も十分考慮に入れて、そんな相手のいなし方を、あとがきで本来の読者層に教えている点であります。
 それも単なる皮肉に止まらず、そこから八犬伝の発展史と、八犬伝と史実・現実の関係にまで言及してみせるのには感心させられました。


 よほどのマニアの方でもない限り、大人が手を出すことをお勧めするものではありません。
 しかし初めての八犬伝として本作に触れた子供は、かなりの確率で八犬伝ファンになるのではないか…そんな印象を受けた一冊であります。


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