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2014.05.08

「鬼狩りの梓馬」 二重の弱者が挑む鬼との戦い

 15世紀後半の武蔵国は穏田村に暮らす少年・梓馬には秘密があった。実は彼はかつて人間に封印され、赤子の体に魂が宿った鬼だったのだ。鬼の心を持ったまま育ち、人の心が理解できない梓馬が出会ったのは、近くの村に暮らす薄倖の少女・ゆうだった。心を通わせあう二人。しかしその前に鬼の影が…

 次々とユニークかつ(様々な意味で)地に足の着いた伝奇活劇を発表してきた武内涼待望の新作は、鬼から人間に転生した少年の成長と死闘を描く「鬼狩りの梓馬」であります。

 舞台となるのは、プレ戦国時代ともいうべき15世紀後半の関東。その中でも辺境の穏田村(現代でいう原宿辺り)に暮らす百姓の少年・梓馬が、本作の主人公となります。

 早くに両親を亡くし、ただ一人の姉も失って、村の狩人の家に引き取られた梓馬は、体は細く頼りない一方で、その目には常に剣呑な光を宿らせた少年。
 というのも、彼の魂は鬼のそれ。かつて鬼の中でも恐れられた存在でありながらも人の呪師の術に捕らえられ、人間の赤子の体に魂を封印された彼は、そのまま人間の体の中で成長してきたのであります。

 しかし、18歳になるまで成長しながらも、彼にとって人間は、人間の心は不可解なことだらけ。時に自分よりも強い相手にもかかわらず向かっていく姿など、弱肉強食の鬼にとっては不可解極まりないものであります。それでも少しずつ彼にとっても守りたい者が生まれ、それなりに平和に暮らしてきたのですが…


 かつて魔物の中でも強者と謳われた男が人の中で暮らし、不可解ながらも人と触れあううちに人の情と安らぎを知り、それを守るためにかつての同族と戦う…
 そんな梓馬の設定を見ると、どうしても連想してしまうのはデビルマン・不動明――それもTVアニメ版の――であります。

 もしかすると梓馬の中には、実際に明の面影があるのかもしれませんが――しかし明確に異なる点が二つあります。

 一つは、あくまでも梓馬は肉体的にはただの人間の少年であること。
 鬼時代に強さの源であった、他の鬼の弱点を知る能力は健在なものの、鬼に変身できるということもなく、ごく普通の人間として、彼は戦わなければならないのです。

 もしてもう一つは、彼が15世紀後半の百姓であること。
 それも最下層に近い、身分的には領主や地主と比べるべくもない、吹けば飛ぶような存在なのであります。

 すなわち梓馬は、鬼と比べれば遙かに弱い人間であり、そしてその人間の中でも極めて弱い立場にある、当時の百姓であるという、二重に弱い存在なのです。

 そんな彼を主人公とする物語は、多くの場合、悲しみに満ちたものであり、彼の繰り広げる戦いもまた、苦しみに満ちたものとならざるを得ません。


 しかし――この言葉が適切かどうかは微妙ですが――それが実に面白い。

 決して超人ではない(しかし作中でほとんどただ一人、鬼に対抗できる力を持つ)梓馬の必死の戦いは、人とそれ以外の存在との戦いという、まさに作者がデビュー作以来得意としてきた構図であり、彼が非力であればあるほど、機転と度胸という武器で立ち向かう彼の姿は印象に残るのです。

 そして彼が社会の中で決して強くない、むしろ弱い立場の存在であることは、必然的に重苦しい物語に繋がるのですが――同時に、そのな中でも消えることのない小さな幸せの輝き、人間性という光明の存在を際立たせることになります。

 弱いからこそ、自らの持てるもの全てを振り絞らなければならない。弱いからこそ、誰かを必要とし、そしてその大切な誰かを守らなければならない…
 そう、鬼の魂を持つはずの梓馬が物語の中で示すのは、紛れもなく人間として生き、戦う姿であり――そしてそれは一大伝奇活劇であると同時に、少年の成長物語でもあるのです。


 いかにも作者らしい文体はこれまで以上に癖がありますし、文字通り地べたを這いずるような梓馬たちの暮らしは、読んでいて辛く感じられることもあります。
 しかしそれでもなお、一人の少年が人間として戦い、成長していく姿は――その舞台設定が特殊であればあるほど魅力的であり、彼の成長していく先をまだまだ見つめていきたい、と感じさせられるのであります。


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