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2014.06.03

「東天の獅子 天の巻・嘉納流柔術」第3巻 開催、運命の警視庁武術試合

 明治の世に現れた新しい武術・講道館柔道を中心に、強さを求める男たちの激突を描く「東天の獅子」の第3巻であります。この巻の前半で描かれるのは運命の「警視庁武術試合」――これまで積み上げられてきた講道館柔道と古流柔術の物語が交錯し、まさに死闘が展開されることとなります。

 警視総監肝いりで開催されることとなった警視庁武術試合――その名のとおり、武術家たちが自らの、そして流派の名誉を賭けて激突する場で行われたのは、以下の四試合――

 講道館・山下義韶 対 起倒流・奥田松五郎
 講道館・宗像逸郎 対 久留米良移心頭流・中村半助
 講道館・横山作次郎 対 揚心流戸塚派・照島太郎
 講道館・西郷四郎 対 揚心流戸塚派・好地円太郎

 完全に、講道館柔道と古流柔術の全面戦争とも言うべきマッチメイクであります。

 そして、ここに登場する選手の多くは、これまでの物語の中でその来歴や人となりが――すなわち銘々伝が語られてきた人物たち。
 サブタイトルにあるように、講道館柔道を中心とした本作ではありますが、しかし感情移入の度合いでは、講道館も古流もありません。ただただ、己の全てを――技や力だけでなく、人生そのものをぶつけてただ一戦に臨む男たちの戦いを、見守るのみであります。

 この武術試合の部分は、正直なところ、展開自体はむしろシンプルかつスピーディといえるでしょう。一人ずつ選手が登場し、戦い、去っていく…この繰り返しであります。
 特に試合と試合の合間の描写などはほとんどなく、すぐに次の試合が始まるため、その意味ではあっさり目ではあるのですが…しかしもちろん、試合そのものの描写は極めて濃厚。
 作者の格闘小説スキルの粋を集めた夢枕節全開の死闘が四連続とくれば、これは詠む方も相当の覚悟が必要になるというものです。

 特に、小柄な西郷四郎が、腕力・体格・人格ともに怪物級の好地円太郎と激突する第四試合は、四郎以上に円太郎のキャラクターの掘り下げが行われているのが印象的。
 剣呑極まりない武術家同士の潰し合いが、やがて切ない相互理解の域に昇華されていく様には、ただただため息をつくばかりであります。

 また、講道館の出場選手の中で唯一四天王ではない宗像逸郎が、前の巻で強烈な印象を残した中村半助相手に挑む第2試合も実に良い。
 柔道を、いや武術を初めて数年の宗像が、生涯を柔術に打ち込んできた中村に挑む姿は、ある意味柔道と柔術の理念を象徴するものと呼ぶべきでありましょう。


 さて、警視庁武術試合も終わり、それぞれの後日譚も語られ、一段落といったところですが、もちろんまだまだ物語は続きます。
 ここで描かれるのは、夢枕格闘小説の十八番とも言うべき、謎の格闘家による闇討ち――

 講道館をターゲットにする謎の琉球唐手使い・梟の狙いは何か。
 物語はどうやら再び、西郷四郎と武田惣角、そして二人を結ぶ伝説の武術・御式内に焦点が当てられるようでありますが、さてそれが結末に向かうこの物語にどのような意味を持つのか…もはや期待しかありません。


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