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2014.06.04

「伏 少女とケモノの烈花譚」第4巻 支配と束縛の因縁を解きほぐしたもの

 桜庭一樹の「伏 贋作・八犬伝」の漫画版、「伏 少女とケモノの烈花譚」もこれで完結であります。江戸を騒がす人獣・伏と戦ってきた少女狩人・浜路。伏の真実を知ってしまった彼女は、自分たちの、そして人間たちの運命をあるべき形に還そうとする信乃と対峙することになるのですが――

 この最終巻の冒頭で描かれるのは、前の巻から引き続き、滝沢冥土が語る伏の由来、忌まわしき真の八犬伝の物語。
 かつて里見家を襲った奇怪な運命の中で浮かび上がるのは、伏が人の業を背負った存在――人の世の災いを背負わされた、一種の贄めいた存在である、という真実でありました。

 しかし驚くのはまだ早い。徳川幕府はその伏の存在を知り、その力を統治のために用いていたというのですから…
 そう、江戸城に眠るのは全ての伏の母たるあの存在。信乃たち伏の真の狙いは、彼女を解き放つこと――すなわち、この世を伏も人もない、弱肉強食の世界に変えることであったのです。

 かくて、江戸城に突入する信乃たちと、彼を止めようとする浜路、そして彼女を追う兄・道節――登場人物たちの最後の戦いが、江戸城を舞台に繰り広げられることとなるのです。


 …これまで、細かいシチュエーションの違いはありつつも、基本的には原作の展開を踏まえてきた本作。しかしこの最終巻の展開は、原作から大きく離れた、独自のものとなっていきます。
 これは言うまでもなく、原作とは異なる(少なくとも明示はされていない)伏の「正体」、その「役割」によることは間違いありません。

 原作も本作も、伏を人のある側面を切り出したものとして描く点においては共通です。しかし原作が伏と人を表裏一体の存在として描いていたように感じられたのに対し、本作は、人から切り捨てられた部分として描いたのが興味深い。

 そこが、伝奇ものとしてはある種定番でありつつもなかなかに興味深く――何よりも、現実世界において伏の存在に当たるのが何であったかを考えれば、かなりギリギリの設定を持ってきた点は、評価できるでしょう。

 その一方で、これだけ深刻な題材、重すぎる展開でありつつも、結末は相当に甘く感じられるのですが――しかし、本作の伏の設定がこうであった時点で、これ以外の結末とするわけにはいきますまい。
 何よりも、世界を支配し、束縛してきた長きにわたる因縁を解きほぐしたものが、畢竟はヒトとヒトとのパーソナルな想いだったというのは、個人的には大いに好みなのであります。
(ただし、台詞での語り合いが多すぎた、という印象はやはり残りますが…)


 忌まわしき物語としての「里見八犬伝」を描きつつも、それを物語として乗り越え、新たな現実の扉を開いてみせる――
 原作とはまた異なる形で、しかし原作に並ぶヒトの物語を提示してみせた本作は、贋作などではなく、正しくもう一つの「伏」と呼ぶにふさわしい作品であったかと感じます。


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