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2014.06.27

「逢瀬 もののけ若様探索帖」(その二) 向かい合う「男」と「女」

 「もののけ若様探索帖」シリーズ通算第4弾、「逢瀬」の紹介の続きであります。過去と現在が複雑に絡み合う本作。そんな物語だからこそ描けるものとは…

 年老いた静山が、若かった自分を振り返った時に初めて理解できるもの。それは様々な喜びや悲しみを味わい、他人――もののけも含めて――の想いを理解できるようになったからこそ理解できる、「過去」の真実であります。
 そしてそこにあるのは、真実を知った喜び以上に、その時に理解できなかったことに対する一種の悔恨の情であり――そしてそんな事件もまた輝かしいものとして感じられる懐旧の情なのです。

 本作に収録されたエピソードの中で、特にそれを強く感じさせてくれるのは「雨降り小僧」であります。
 静山にしきりにまとわりついてくる雨降り小僧。そもそも男なのか女なのかもわからぬこの妖怪と、怪しげな大年増に翻弄された静山は、大名失格の烙印すら押されかねない状況に追い込まれていくことになるのですが…

 が、「過去」の物語は、雨降り小僧と大年増の「正体」も語られぬまま、もやもやとしたものが残ったまま、終わりを告げます。
 その真相が語られるのは、「現在」になってから、静山が年老いてから――未熟だった若き日と違い、様々な人の心の綾を理解できるようになってから。
 そして彼の前に再び現れた雨降り小僧の姿は…いやはや、この結末をなんと評すべきか。静山ともののけたちの関係の、ある意味ネガとも言える人物の姿には、哀しみと切なさ、そして恐ろしさが漂います。
(ちなみにこのエピソード、伝奇的にもなかなかユニークなアイディアが用いられております)


 そしてもう一つ、本書のタイトルともなっている「逢瀬」も圧巻の内容です。
 艶福家であった静山が、しかし終生愛し抜いた――しかし若き日に死別した――正室・鶴年子。これまでのシリーズでも断片的に登場していた彼女が、今回初めて本格的に物語に絡んでくるのですが、それがまた意外な切り口なのであります。

 「現在」の静山の前に、死別した時の若く美しい姿で現れた鶴年子が語るのは、かつて彼女が上屋敷から家出した「過去」の物語であります。
 ある日突然、静山のもとから姿を消した鶴年子の行方を、彼女が実家から連れてきた腰元とともに捜索に奔走する静山。杳として彼女の行方は知れぬまま、しかし数日して自分から帰ってきた彼女は、家出の理由と、不思議なもののけにまつわる物語を語るのですが…

 鶴年子が語る「過去」の物語は、やはり理不尽に感じられる箇所は残りつつも、それなりの決着をみることになります。しかし「現在」の静山の目に映るのは、それとは全く異なる真実。
 鶴年子が静山に語った物語は何を意味しているのか、そしてその背後にある家出した真の理由は――そこに浮かび上がるのは、「過去」と「現在」に加えて、「男」と「女」の不可思議な関係なのであります。

 なるほど、本シリーズにおいて語られる物語は、人間と妖怪の物語であると同時に、あくまでも男と女の物語でありました。
 その構図が静山の最も愛した女性にして正室という立場の女性にまつわる物語で最も色濃く浮かび上がったのも、偶然ではありますまい。


 先に述べた通り、構造としてわかりやすいとは言えない部分もあります。しかしそれを読み解いた先に浮かび上がるのは、何とも魅惑的で、そして恐ろしい世界。
 明るく楽しいだけではなく、それに加えてドキリとするような人の生の真実を描く、油断のならぬ作品であります。


「逢瀬 もののけ若様探索帖」(伊多波碧 廣済堂モノノケ文庫) Amazon
逢瀬 もののけ若様探索帳 (廣済堂モノノケ文庫)


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