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2014.06.19

「開化怪盗団」 悪党たちが求めたここではないどこか

 明治時代、貧乏学生の安岡保は、ふとしたことから宝石商の高牟礼三太郎と知り合った。一見気障で軟弱だが、時として尋常ならざるものを感じさせる三太郎。それもそのはず、三太郎には一癖も二癖もある悪党たちを束ねる裏の顔があった。次々と荒稼ぎを重ねる三太郎の、驚くべき真の目的とは…

 ミステリと並び時代小説を得意とした多岐川恭による、非常にユニークな時代小説であります。ジャンルでいえばピカレスクもの、ということになるかと思いますが、それに留まらぬ、奇想天外でどこか切ない輝きを持つ…そんな作品です。

 本作の舞台となるのは明治時代、自由民権運動が盛んになってきた頃であります。
 このような運動が高まっていたのは、裏を返せば薩長土肥が権柄ずくで世の中を動かしてきた故であり、そしてまた四民平等と言いつつも、歴然と身分の差が存在していたが故――

 そんな、時流に取り残されたもの、低い身分の者たちが馬鹿を見る時代に、強盗、掏摸、詐欺…様々なやり口で派手に稼ぐのが、本作の主人公・高牟礼三太郎。
 彼の表の顔は、舌先三寸で調子の良い宝石商。しかし裏の顔は、日本の泥棒や掏摸はおろか、イギリス人の悪党連中も味方につけて、金持ち連中の貯め込んだ金をむしり取る…そんな一味の頭なのであります。

 本作は、そんな三太郎と仲間たちの活躍(?)と、そうとは知らずに彼に関わっていく富豪令嬢の那美や貧乏学生の安岡ら周囲の人々の姿、そして三太郎一味に迫る警察の姿が絡まり合い、展開していくこととなります。

 主人公は盗賊団、しかも三太郎は何かの目的のために、腕利きを集めているらしいとくれば、物語のパターン的には、クライマックスで彼らが大仕掛けな悪事を働くのだろうな、と予想してしまいますが、それは半分当たり、半分外れます。

 三太郎と仲間たちの目的、なりふり構わずとすら感じられるほどのやり口で荒稼ぎする彼らの真の目的がなんであるか――

 その詳細はここでは触れません。
 しかしそれが明かされる時、本作は痛快なピカレスクロマンから一転し、切ないまでに「ここではないどこか」を求める物語へと転じるのであります。

 思えば本作の登場人物のほとんど――主人公格である三太郎一味のみならず、安岡ら周囲の人々、あるいは敵である警察の下っ端たちも含めて――舞台となる明治の世では、半ばドロップアウトした者たち。
 薩長土肥が支配する世に受け入れられず、あるいは自ら背を向けて生きる者たち――本作の中心となるのは、そんな人間たちなのであります。

 本作で描かれるのは、そんな人間たちがせめてもの夢を見ようとあがく姿。そしてそれは、段々と息苦しくなりつつある今この時に生きる我々にとってなじみ深い、いや我々自身の姿に感じられるのです。


 ある意味全てを投げ出してしまったかにも感じられる本作の結末については、賛否分かれるかもしれません。
 しかし私には、ピカレスクロマンからどこかもの悲しいおとぎ話へと変貌を遂げたこの物語には、相応しい結末に感じられるのです。


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