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2014.06.26

「逢瀬 もののけ若様探索帖」(その一) 絡み合う「過去」と「現在」

 現代にまでその名を残す随筆「甲子夜話」を記した平戸藩主・松浦静山を主人公に、彼ともののけたちの不思議な因縁の数々を描く「もののけ若様探索帖」シリーズ、移籍第2弾、通算第4弾であります。本作では、これまで謎めいた存在であった静山の正室・鶴年子がクローズアップされるのですが…

 藩主として腕を振るい、「甲子夜話」を遺し、そして剣の腕も達人クラスだったという静山。しかし本シリーズでは、彼のもう一つの顔が描かれます。
 それは「視える人」としての顔――実は彼は、幼い頃から人ならざるもののけたちを視ることができたのであります。

 しかし視えるだけではありません。静山の体質なのか、女のもののけはほとんど例外なく彼にベタ惚れ。彼に張り付いて離れず、仕方なく平戸藩の上屋敷に連れ帰った静山は、彼女たちを奥女中として召し使っていた…という、可笑しくも何とも大変な状態なのであります。

 そして本シリーズのユニークな点はそれに留まりません。実は本作は、死を目前とした静山が、そんなもののけたちとの若き日の物語を振り返る、甲子夜話異聞。
 それ故、本シリーズにおいては老いた静山と若き日の静山と、二人の静山の姿が描かれることになるのであります。

 そんなシリーズの極めて特徴的なスタイルは、もちろん本作においても変わることはありません。「忠義狸」「雨降り小僧」「あまのじゃく」「逢瀬」――収録された4つのエピソードは、いずれも死の床の静山が、己の懐かしくもほろ苦い過去の数々を振り返る物語なのであります。


 実のことを言えば、本シリーズのスタイルは、時に煩雑に感じられることがなしとは言えません。
 「過去」と「現在」が複雑に絡み合い、「過去」についても、各エピソードで順番に描かれるのではなく、行ったり戻ったり。「過去」では描かれなかった真実が、「現在」で初めて明らかになることもあり、混乱するとは言わないまでも、わかりやすい状態とは言えない状態であります。

 しかしもちろん、こうしたスタイルだからこそ描ける物語があります。

 若き日の静山――庶子の身から平戸藩主となったばかりであり、まだ藩主としても人間としても未熟な彼が巻き込まれた事件。
 その時にはただただ奇妙で理不尽に思われた事件(ちなみに本作に収録されたエピソードは、理不尽系とでも評したくなるような内容のものが多いのは一つの特徴かと)も、老いてから振り返れば、全く違うものとして見えてくるのであります。


 長くなりますので、次回に続きます。


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