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2014.06.12

「ますらお 秘本義経記 羅刹の章」 義経の伝奇性と人間性と

 今月第3巻(最終巻)が発売されたばかり、そして月末には待望の新刊が登場する「ますらお 秘本義経記」の廉価版コミックの第2巻であります。自分の向かうべき先も定まらず、美しき悪鬼羅刹の如く荒れ狂っていた遮那王も、様々な人々と出会い、新たな道へ踏みだしてくこととなります。

 幼い頃に鞍馬山に入れられながらも、自らの境遇に満足せず、脱走を繰り返していた遮那王。
 天狗を名乗る謎の男に連れ出されて山を捨て、伊勢三郎、常陸坊海尊らを仲間に加え、天狗の下で武芸を磨く遮那王。しかしそれに飽き足らず都に出た彼は、怨敵清盛を狙うのですが、もちろん成功するはずもなく――

 という第1巻を受けたこの巻で描かれるのは、この京から瀬戸内、九州、奥州へと、次々と舞台を変えて描かれる、いわば遮那王…いや義経の青春時代とも言うべき物語であります。
 かの弁慶を加えて京を逃れた遮那王たちが向かった先の瀬戸内で、源氏ゆかりの、しかし今は平氏方の河野水軍と出会い、その内紛に巻き込まれる瀬戸内編。
 天狗の作った源氏の隠れ里に向かった義経の前に現れたもう一人の義経との対面と、宿敵・平維盛との対決を描く九州編。
 そして謎の人物・金売り吉次により半ば強引に奥州に誘われた義経一行が、奥州を騒がす謎の鬼と対峙する奥州編。

 この時代は、義経の生涯の中でも記録の少ない頃であるためか、バラエティに富み、かつ伝奇性も豊かな物語が、ここでは展開されることとなります。
 ことに謎の老人・天狗の意外かつ納得の正体、そして奥州でその弓術と馬術で義経を苦しめた鬼の正体などは、比較的堅めに思われた本作でこのような展開が読めるか、と嬉しい驚きであります。

 そんな中でも、元服して「八郎義経」と名乗った義経が、自分と全く同じ名の、為朝の子を名乗る「八郎義経」と対峙する九州編は、特に印象に残ります。
 その設定・趣向の面白さもさることながら、自分と似たような出自で全く同じ名前を持つ人間と照らし合わせることで、「義経」としてのアイデンティティーを再確認する――そのタイミングとして元服直後を選ぶのも心憎い――ことで、義経の成長を描いてみせるのには舌を巻かされます。

 そしてこの巻で注目すべきは、これらの伝奇的趣向もさることながら、それ以上に、まさにこの義経の人間としての成長でありましょう。

 第1巻の時点では、自分の周囲の人間全てを敵、あるいは利用すべきものとして睨みつけるばかりだった義経。
 唯一その例外は、(作中で要所要所で再登場する)静の存在でありましたが、しかしこの巻において広い世界に旅立ち、様々な人々と出会っていくことで、義経は、静以外に対した時もまた、人間くさい表情を見せるようになっていくのです。

 その人間的成長のきっかけとなったのが有情熱血の男・武蔵坊弁慶であり、そしてリーダーとしての覚悟と自覚を促すのが天狗の○○というのが泣かせるのですが――
 いずれにせよ、義経の孤独な精神がこれでもか、とこれまでも描かれてきただけに、変わりゆく彼の姿が、何よりも嬉しく感じられるのです。

 そして時は流れ、この巻の終盤ではついに頼朝が決起。それに合流せんと義経主従は奥州を発つのですが…
 ここから先、義経を待つのは、我々もよく知る歴史のうねり。その中で彼の成長がどれほどの意味を持つのか――期待半分、不安半分で待っているところであります。


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