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2014.07.16

「星紋の蛍」第1巻 姫になれぬ彼女が挑むもの

 隠の里に生まれ、忍びの父と兄を持ちながらも、その素顔を隠すように大事に育てられた少女・蛍。戦で父と兄が消息を絶ち、天涯孤独となった蛍を、ある日自らの屋敷に伴ったのは、石田三成だった。自分を姫君のように育てる三成に、密かな想いを募らせていく蛍だが、彼女を待っていた運命は…

 「天下一 !!」で天正年間に織田信長とその小姓たちを描いた碧也ぴんくが、その信長が本能寺の炎に消えた直後の時代を描く、時代ロマンであります。

 主人公となるのは、類希なる美貌を持つ忍びの生まれの少女・蛍。そして彼女が想いを寄せるのは、次代の覇者たる羽柴秀吉の懐刀――石田三成であります。

 父も亡き母も、兄も忍びとして働きながらも、何故か忍びの技を教えられず――それどころか、己の顔を隠すように育てられた蛍。
 しかし偶然その顔を見た三成は、蛍の父と兄が戦場に消えた後、蛍を引き取り、己の屋敷に住まわせるようになります。

 正室が嫉妬するほどにまるで深窓の姫君を育てるかのように蛍を磨き上げ、飾り立てていく三成。そんな三成に、半ば当然のように惹かれていく蛍なのですが、しかし三成の真意が、残酷な形で蛍の前に明らかになるのです。


 私のようなおっさんが言うのもなんですが、やはり貴公子に見初められ、美しく磨き上げられて、彼と結ばれるというのは、女性にとって一つの理想――という言い方がよろしくなければ、繰り返し物語のモチーフとされるだけの魅力を持つ内容と申せましょう。

 本作において、蛍が夢中になって読みふける源氏物語がそうであるように。
 …そして、その源氏物語に描かれる恋愛模様、人間模様が決して美しいばかりではないように、蛍の運命もまた、皮肉かつ残酷な形で大きく動かされることになります。

 最近ではすっかり良い役回りの多くなった三成ですが、本作の三成も、颯爽としたビジュアルかつ才気煥発、そして(蛍にとっては)優しく頼りがいのある男性として描かれます。
 が、彼にとって決定的に欠けるのは――これはこれまでの三成像に重なる部分が大きいですが――周囲の人間の心を慮るということ。自分の正室の名前を忘れる(覚えていない)ほど、ある種の合理性を持つ彼が、単に蛍が美しいからといって、彼女の世話をするものかどうか?

 ここで描かれるのは、男の身勝手さ――というよりある種の無神経さでありましょう。そしてそれに泣くのは、蛍ばかりではありません。
 そう、この第1巻終盤に登場するのは、ある意味最もそれに泣かされた人物。後世には――かつての三成のように――悪評の方が多く残される人物ですが、しかし客観的に、いや彼女の立場になって考えてみれば、その人生がどれほど惨苦に満ちたものであったかは、容易に想像がつきましょう。

 姫として生まれながらも泣くことすら忘れた彼女と出会うことで、姫たることを求められながらも姫になれない蛍の何が変わるのか。
 それは、言い換えれば、個人の想いなど容易く押しつぶす残酷な歴史のうねりの中で、人に何ができるかを問うことになるのではありますまいか。
 そしてそれは、作者の歴史漫画のほとんどに共通する主人公像であります。


 蛍の物語は、この第1巻の時点では、ようやく本編に入ったところでありましょう。
 季刊誌ゆえ、なかなか先の展開を読むことができないのがもどかしいのだけが、残念な点ではありますが、こちらもじっくりと腰を据えて、彼女の挑戦を追っていくことといたします。


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