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2014.07.21

「蒼眼赤髪 ローマから来た戦国武将」第1巻 奇なる事実が描く騎士と武士

 観音寺城の戦いで織田信長の猛攻により死を目前とした蒲生鶴千代(氏郷)。その前に現れたのはローマからオルガンティーノの護衛としてやってきた十字軍騎士、蒼眼紅毛の巨人・ジョバンニ=ロルテスだった。圧倒的な力で鶴千代を救い出したジョバンニ。二人にはある因縁があった…

 日頃少々変わった本を読んでいるせいか、滅多にこの言葉は使わないのですが、「事実は小説より奇なり」というのは、確かにあるものだと久々に感じました。
 それが本作の主人公、ジョバンニ=ロルテス――蒲生氏郷に仕えたという、ローマ人戦国武将の存在であります。

 かの宣教師・オルガンティーノとともに来日し、キリシタンであった蒲生氏郷に随身、山科羅久呂左衛門勝成と日本名を名乗り、氏郷の下で活躍したというジョバンニ。その活躍期間は長かったらしく、秀吉の九州討伐の際に、島津の岩石城攻めで活躍したという記録が残っているようであります。
 そのジョバンニを、本作はパワフルに、そして桁外れの存在として描き出します。

 何しろ、冒頭で描かれる鶴千代(氏郷の幼名)とジョバンニの出会いが、ローマを舞台としているのだから驚かされます。信長の使節として海を渡った鶴千代と兄は、そこでキリスト教とイスラム教の争いに巻き込まれ、そこでジョバンニの活躍を目の当たりにすることになるのですが…

 と、氏郷が遣欧使節を送ったという説に基づくと思しい展開ですが、さすがに本人が海を渡るのは、などと小さなことは言いますまい。この時に鶴千代とジョバンニが出会ったことが、彼らの終生の絆を結ぶきっかけとなったのですから…

 そして時は流れ、観音寺城の戦い。当時蒲生家が与力していた六角家と織田家の戦いの中で追いつめられた鶴千代の前に現れたジョバンニ。しかし彼は鶴千代ともども信長に捕らえられ、思わぬ命を下されることになります。
 さらに鶴千代を襲う、過酷かつ意外な運命の変転。そんな彼を支えるジョバンニは、その巨体と戦闘力を生かして大暴れするのでっすが…


 武士と騎士、ともに中世封建社会の支配階層兼戦士であり、ともに精神的支柱としての「道」を持つ(とされている)ことから、何とはなしに近しいものを感じる概念です。
 しかし武士はともかく、騎士は我々にとってはまだまだ未知の部分も多い存在。いや、知っているつもりの武士ですら、意外に感じる部分も実は少なくないのであります。

 本作で描かれるのは、そんな近くて遠い、知っているようで知らない、武士と騎士の姿なのでありましょう。
 重なる部分も少なくないものの、しかしやはり異なる存在である武士と騎士――その両者を兼ねたジョバンニという存在を物語の中心に置くことで、本作は武士と騎士の、時に重なり合い、時にすれ違う部分を描き、それによって両者の姿をそれぞれ浮き彫りにせんとしているのではありますまいか。

 そんなジョバンニの存在感が、もっともはっきりと現れたのは、捕らえられ、信長の前に引き据えられた彼が取った行動でありましょう。
 日本の武士の姿からはあまりに異なる、エキセントリックとすらいえる彼の言動は、しかしそれだけに、騎士という存在のある側面を、強烈に印象づけてくれるのであります。


 しかし、それでも、いやそれだからこそ残念に感じるのは、ジョバンニと対比されるべき日本の武士――信長や秀吉、いや鶴千代もまた、今一つ魅力が感じられない点であります。
 今のところ、あまりにも異質で奇怪な敵としか感じられない信長と秀吉、過酷な運命に振り回されているとはいえ、力強さの感じられない鶴千代…

 前者は、騎士と武士の異質さの象徴を描くための描写かもしれません。後者は、これから成長する姿が描かれていくのでしょう。

 そうした点は理解できるものの、やはり現時点では彼らは感情移入できない存在であり…その反動で、ジョバンニもまた、悪い意味で浮いた存在に見えてしまうのであります。

 もちろん物語はまだ序章といったところ、これからそれぞれの真実の顔が見えてくるのでしょう。
 事実は小説より奇なり――その言葉を地で行く男の活躍を、心ゆくまで楽しめるようになるよう、今後の展開に期待します。


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コメント

小説とかに登場させるのにうってつけの人物なのに、なぜかフィクション関係には無視されている可哀想な?キャラクターですね。

あと、この漫画のスピンオフ漫画がイタリア文化会館のブログで4コマ漫画『戦国イタリア~ノ』として連載中です(月刊)。日本=イタリア両国の親善に役立つ・・・のかな?

投稿: じゃらる | 2014.07.21 23:19

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