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2014.07.18

「信長のシェフ」第10巻 交渉という戦に臨む料理人

 ドラマ第二期のスタートとほぼ同時に発売された「信長のシェフ」最新巻、ついに二桁の大台に突入の第10巻であります。武田家に拉致され、そこから逃れたものの徳川方で三方ヶ原の戦に参加し…と激動続きのケン。ようやく織田家に帰ってきても、まだまだ彼の料理人としての戦いは続きます。

 ここしばらく、絶体絶命の展開続きだったケンですが、大きな合戦(に参加すること)もなく、物語展開的には比較的落ち着いた印象のこの巻。
 しかしむしろ平時こそ料理人としての真価が問われるのは言うまでもない話であります(というより、ケンが戦場でも大活躍しすぎているのですが)。

 今回彼が活躍するのは、戦の合間の交渉時、美味しいものは人の心を動かし、そして人の心を露わにしますが、ケンの料理が今回も意外かつ大きな効果を上げることになるのです。


 …と、この巻で最初に描かれるのは、ある意味、戦以上に大きな大きな意味を持つ交渉。これまで信長と陰に日に対立を続けてきた将軍・足利義昭を降伏させるための交渉なのですから。

 信長と義昭の軋轢とその結末については、言うまでもなく史実にはっきりと残されているところですが、本作において、ケンと義昭の間にも様々な因縁がありました。
 そんな相手の、あるいは今生最後となるかもしれない食事に、ケンが何を作るのか――

 気のせいか、一度織田家を離れてからケンのキャラクターに一種の厳しさと申しますか、覚悟のようなものが感じられるようになってきましたが、ここで彼が見せたのはまさにその厳しさと――そして変わらぬ優しさ。
 比較的物語冒頭から完成して感じられるケンのキャラクターではありますが、なるほど、彼もまた成長を続けていると感じたところであります。

 そんな彼の厳しさと優しさは、後半の阿閉貞征調略のエピソードでも感じられるところですが、やはり彼の、本作の最大の魅力は、戦国時代という、食材も道具も限定された舞台で、いかに見事な料理を作ってみせるかでありましょう。

 そんな魅力が大爆発したのは、中盤の山科言継との交渉、いや接待の席でのこと。信長にとっては、ある意味戦と同等、いやそれ以上の意味を持つこの席で、ケンが用意した料理とは…

 いやはや、これまでも意外な組み合わせを見てきたものですが、今回の爆発力は――その料理がまたある意味可愛らしく、そして現代ではありふれたものだけに――相当のもの。
 時代漫画としての本作の面白さは、上で述べたようにある種の限定(条件)に依るところが大ですが、しかしそれだけではなく、加えること――すなわち、この人物にこの料理が、この事件にこの料理が、という点があるということを、再確認させられました。


 そして、交渉はまた、次なる戦のためのものでもあります。いよいよ始まった浅井・浅倉との決戦。ケンも浅からぬ縁のある浅井家との戦の中で、彼の料理がいかに働くのか――
 そしてまた、この巻でケンの姿と平行して描かれてきた、織田の女忍・楓の運命も気になるところ。再びのドラマ化も相まって、本作の勢いもまだまだ留まるところを知りません。


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コメント

テレビはちょっと肌に合わんかったので切りました。が、原作は良いですな。武田、徳川と経て信長の所に戻ってきた事で、ケンが森可成が織田家中で家臣の間で担っていた役回りを担っているようにも見えますね。信長にとって自分の言葉が通じる上に「裏切る事が無い」人間。で、ケンは料理人でありながら媚びると云う事をしない。だから家臣にとってもライバルになる心配が無く、解りにくい信長との間に立って泥をかぶれる男と見なされているのかも。このまま戦国の世が終わっても「天下人の料理人」として秀吉、家康と三代の天下人に仕えそうだ。ケンを料理人として抱える事が天下人の証の一つになったりして。ケンが本能寺で信長と運命を共にしようとしても「ぬしは生きて腕をふるえ」と当て身をかけてのしてから用人達に「ケンを逃がす様光秀に言え。あれも否とは言わぬだろう」といって。笑いながら「大往生してから儂のめしを作りに来い。ぬしがこの天下を如何に駆け、腕をふるったかを聞きながら待った分、たんと食わせて貰う故な」と笑いながら逝きそうだな。できればようこも夏も幸せになって欲しいもんです。楓は危うそうだけど、生き延びて忍び働きが出来なくなっても「ケンの護衛と手伝いをやれ。ようことやらに菓子の造り方も教わったろう」とジョブチェンジしたりして。気になるのはケンはフランス料理人だからあえて牛乳を使う事に拘っているんでしょうかね? 豆乳で代用しない所は料理人としてのこだわりなのか? とか可成のカカオ豆のエピソードではココアバター分離してつくったんだろうかなどと思ったので。まあ、貴族は蘇や醍醐といった乳製品が超貴重品であったからあまり抵抗ないだろうけど。武家はどうなんだろうか? 後、調略が成功した秀吉への褒美は「休息とケンの料理を最初に食べる権利」じゃねと思いました。信長が持ってきた料理を食べながら「最初に食うてみて美味かったろう。何時もは儂が最初じゃが、ゆるりと休んで普段は儂だけの楽しみである最初にケンの飯を食うてみるのはどうじゃった?」と笑って聞かれて赤面しつつ「いと美味しでございました。おかかにも食わせてやりたいものです」とか返してねねさんとケンが顔合わせしたら面白そうだ。

投稿: almanos | 2014.07.18 23:23

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