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2014.07.12

「真・餓狼伝」第6巻 古い時代を背負う者から新たな時代へ旅立つ者へ

 明治を舞台に若き格闘家たちの激突を描いてきた「真・餓狼伝」も、この第6巻で完結。想像以上に早い完結はまことに残念ではありますが、しかしこの最終巻で描かれたのは、一つのまことに美しい物語の結末と始まりであったかと思います。

 丹波流の交流会(という名の潰し合い)に優勝した丹波文吉に迫る奇怪な影。それは丹波流の先達たち――実は丹波流には80年に一度、交流会の優勝者が、その時代に最強の流派に挑み、これを潰すというしきたりがあったのであります。

 いきなり伝奇的な…いや文明開化の時代にアナクロ極まりないしきたりでありますが、これを拒めば待つのは死。そして、その命を果たしたとしても待つのはおそらく死…
 行くも死、行かざるも死の運命から文吉を逃すために、父・久右衛門は大いなる選択をすることとなります。


 本作において最大の謎であった久右衛門の行方。物語開始時点には既に亡くなっていたこと、そしてそれが講道館と関係があるであ
ろうことは、文吉の行動から読みとれますが、しかし謎のままであったその詳細が、ここに明らかになるのであります。


 実に、この最終巻の主役は久右衛門と言っても過言ではないかもしれません。
 これまでもそのユーモラスなビジュアルや言動、しかしその中に熱く脈打つ自流派への誇り、そして何よりも文吉への愛は強く印象に残ってきたところではありますが――この巻で描かれた二つの戦いは、そんな久右衛門という人物の集大成と言えましょう。

 指導者として、研究者としては超一流であっても、格闘者としてはお話にならなかったはずの久右衛門。そんな彼が挑む二人の敵は、作中でも屈指の存在であります。

 そんな相手に対し、久右衛門が如何に戦ったか、そして彼を突き動かし、支えたものが何であったか…
 文吉に対してそれが明らかにされるラストは、そしてそこで久右衛門を評する嘉納治五郎の言葉には、ただ涙涙であります。

 近世から近代へと大きく移り変わる時代の中で、格闘に打ち込む者、そして彼らを育てる者たちの姿を描いてきた本作。
 その結末に、古い時代を背負ってきた者が、新たな時代へ旅立つ者に想いが受け継がれる姿が描かれ、そしてそれがそのまま、新たな戦いの始まりへと繋がっていくというのは、まことに美しい終幕と言えるのではないでしょうか。


 まだまだ描くべき内容、描ける内容はあったと思います。基本的にイイ話のため「餓狼伝」という印象があまりなかったという点はあります(個人的には、前田光世を描く予定だという「東天の獅子 地の巻」の序章と呼んでもよいのではないかという気もしますが、それはそれでよし)。

 しかしそれでも本作で描かれたもの、移りゆく時代の中で変わっていく格闘者たちの生き様、そして変わらず受け継がれる想いは、爽快極まりないものであり――ここまでの物語で、それは明確に描けていたとも感じるのであります。
 「時代」格闘漫画として、よいものを見せていただきました。


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