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2014.07.17

「茶会の乱 御広敷用人大奥記録」 女の城の女たちの合戦

 快調なペースで続く御広敷用人大奥記録ですが、それはとりもなおさず水城聡四郎の苦闘が、そして大奥における陰湿な争いが続くということでもあります。本作のタイトルは一風変わった「茶会の乱」、文字通り大奥における茶会を巡る一波乱が描かれることになるのです。

 将軍就任からほどなくして大奥粛正に乗り出した将軍吉宗。天英院と月光院、先代、先先代将軍の時代から大奥を牛耳る二人に対して当てつけるように、吉宗が近づいたのは、大奥で忘れ去られていたように暮らしていた竹姫であります。

 俄然、大奥の注目を集めるようになった竹姫を守り、支えることとなったのが、我らが聡四郎。前作では、代参で城外にで出た竹姫を襲った刺客と死闘を繰り広げた聡四郎ですが、本作で展開されるのは、その聡四郎の剣も及ばない戦い――大奥での茶会であります。

 吉宗憎しで時に結託するものの、元々は不倶戴天の敵とも言える天英院と月光院。その二人が茶会を開くことになったのですが…しかし茶会とは言い条、そこで繰り広げられるのは、相手を引きずり下ろし、自分が上に立とうという陰湿な争いであります。

 茶会で用いられる茶や菓子の手配、場所取りに至るまで…今回繰り広げられるのは、ここまでやるか! と言いたくなるような、潰し合いとも言うべきもの。なるほど、女の城たる大奥で行われるこれは、女の合戦と言うべきでありましょうか。

 さて、その「合戦」に巻き込まれることとなった竹姫ですが、直接の危険はないとはいえ、吉宗の命で竹姫付きの用人となった聡四郎にとっては、おろそかに出来ぬイベント。
 しかしもちろん、彼が直接足を踏み入れることができぬ大奥において、彼が如何にして竹姫を助けるか? それが本作の注目ポイントかと思いきや――全てを上様がかっさらっていくのですから、本当に人が悪い。

 普段は聡四郎に対して無理難題をふっかけこき使う(上田作品定番の)鬼上司の役回りの吉宗ですが、本作のクライマックスにおける姿は威風堂々、台詞がマツケン声で聞こえてくるような頼もしさなのであります。

 しかしその直後に、吉宗が竹姫に執着する真の理由が明かされるというのがまた心憎い。あまりの年の差カップルぶりに、上様はもしや…などと思ったこともありましたが、いやはや、やはり陰謀家という点では本作一、実に「らしい」吉宗像にはニヤリとさせられます。


 さて戦いは、しかし、女の城で繰り広げられるものだけではありません。本シリーズの陰の主役、負の主役とも言うべき伊賀者たちも、まだまだ元気に(?)暗躍いたします。

 物語の冒頭から聡四郎と対立を続ける御広敷伊賀者。これまで幾度となく聡四郎を襲撃し、ついに前作で進退窮まったと思われた(元)組頭・藤川は、ついに御広敷伊賀者の身分を捨てるのですが――さて、禄を離れた彼が、いかにしてこの先生きていくのか?

 本作で描かれる彼の、ある意味鮮やかな去就、そしてそれが引き起こす影響は、むしろここまで来れば感心する域。禄を離れるという、侍の――そして上田作品の登場人物たちの――行動原理の逆をいく彼は、これからも本シリーズをかき乱すのではありますまいか。


 大奥の女たち、将軍、禄を捨てた忍び…こうした破格の面々に対すると、正直なところ、今回も聡四郎は食われがち、というより、狂言回し的な立ち位置という印象ではあります。
 しかし彼と紅にとって、人生最大のイベント――そしてそれは上田作品共通のテーマ「継承」の象徴でもあります――が近づく中、同時に彼らに迫る命の危機。

 前作で聡四郎に捕らえられたくノ一・袖の去就も含め(紅や玄馬との会話は、ある意味本シリーズのテーマを示すものとして実に印象的であります)、やはり次の展開が気になってしまうのです。

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茶会の乱: 御広敷用人 大奥記録(六) (光文社時代小説文庫)


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