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2014.07.27

「棘の闇」 室町の妖しく昏い輝きを集めた宝石箱

 最近は矢継ぎ早にコミカルな妖怪時代小説を発表している朝松健ですが、このブログでもこれまでご紹介してきたように、元々は伝奇ホラーの名手。その中でも、一休宗純ものを中心に、作者の独壇場というべき室町伝奇ホラーの名品を集めた久々の短編集であります。

 本書に収録された室町伝奇ホラーは全5編。いずれもホラーアンソロジー「異形コレクション」に掲載されたものであります。

 この「異形コレクション」、Amazon等の紹介文を見ると「伝説のホラーアンソロジー「異形コレクション」から」、という表現が使われていて、リアルタイムで読んできた人間には少々複雑な気分になるのですが、しかし振り返ってみれば、確かに「伝説」でありましょう。

 というのも本シリーズは雑誌等に掲載されたものではなく、書き下ろし、それも一冊一テーマの下で書き下ろされた短編ホラーを、毎回20作品近く収録してきたのですから。
 残念ながら、この数年間刊行が止まっておりますが、しかし刊行中の驚異的なペースも含めて、間違いなく日本ホラーの一つの到達点でありましょう。

 そしてそんな「伝説」の中で、一際異彩を放っていたのが、朝松健の室町伝奇ホラーなのであります。
 先に述べたとおり、毎回テーマを定めて刊行された「異形コレクション」。そのバラエティーに富んだテーマ、どう考えてもこれは無理だろうというものまで、ことごとく作者は室町伝奇ホラーを――そして言うまでもなく優れた作品を――送り出してきたのですから。

 以下に、本書に収録された作品のタイトルと内容、そしてその時のテーマ名を()内に挙げましょう。

 降霊会の座興で行われたある遊びが、その場に奇怪な地獄絵図を生み出す「異の葉狩り」(「夏のグランドホテル」)
 妖管領・細川政元に我が子をさらわれた男が、救出に向かった島で見た悪夢「この島にて」(「進化論」)
 ある貴族の恋の仲立ちをした一休が、相手の娘にまつわる奇怪な噂を知る「屍舞図」(「Fの肖像――フランケンシュタインの幻想たち」)
 若い女性を空から襲い食らうという女の顔を持つ怪物と一休の死闘を描く「醜い空」(「怪物團」)
 剣豪・諸岡一羽の技を盗もうとした男が知った秘剣の恐るべき正体「輝風 戻る能わず」(「アート偏愛」)

 作品の内容と、各巻のテーマをご覧いただければ、与えられたテーマに対して職人芸ともいうべき切り返しを見せる、作者の技がうかがわれるのではないでしょうか。

 その中でも特に注目すべきは冒頭の「異の葉狩り」でしょう。何しろ本作が収められたのは、そのタイトルが示すとおりのグランドホテル形式(ある場所に偶然集まった人々それぞれの姿を描くスタイル)、現代のとあるホテルの夏の一夜を描く一冊だったのですから。

 それが如何にして室町に結びつくのか、という点だけでも気になりますが、その上、本作は、同時に一休宗純ものでもあるのですから、これはもう離れ業などという言葉ではすまされますまい。


 しかし――これだけテーマとの関係を称揚しておいて言うのも恐縮ですが、本書に収められた作品たちは、もちろん、その作品自体が実に魅力的であることは言うまでもありません。
 実はこのブログでは、これまで5作品とも初出時に紹介しておりますが、今回こうして読み返してみると、アンソロジーに収録されていた時とはまた異なる――誤解を恐れず申し上げれば、作品の本来の味わい、それぞれの作品が持つ、濃密な世界を堪能することができました。

 各作品が収められた「異形コレクション」が、色とりどりの万華鏡であったとすれば、本書は昏く妖しい光を放つ秘石たちが集められた宝石箱と言うべきでしょうか――
 一度に読み切ってしまうのが惜しいほどの、一編一編味わって読みたい、それほど濃密な室町の闇を味わうことができる一冊であります。


 ちなみに本書の――このレーベルにしては珍しい――解説を担当するのは井上雅彦。
 なるほど、自身がホラーの名手であり、そして何よりも「異形コレクション」の編者であった氏以外に、本書の解説者に適任はおりますまい。こちらも、堪能させていただきました。


「棘の闇」(朝松健 廣済堂モノノケ文庫) Amazon
棘(おどろ)の闇 (廣済堂モノノケ文庫)


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