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2014.07.08

「朧月夜の訪問者」 美しくも無惨な純粋平安ホラー集

 長尾彩子といえば、「裏検非違使庁物語」など、少女向けレーベルで、気になる作品を発表している作家。本書は、どちらかと言えば明るい作風という作者のイメージを一変させるような、平安時代を舞台としたホラー小説集。「cobalt」誌に発表した三編に、書き下ろし一編を加えた全四編構成であります。

 本書に収められた四編は、いずれも同じ時代を舞台とするらしく、共通する脇役も登場するものの、各編は内容的には完全に独立し、主人公もまた別々の人物となります。
 …しかしそれも道理、各編で主人公が迷い込むのは、この世のものならぬ怪奇と、この世の人間の狂気が入り乱れる世界。一度そこに踏み込んで、無傷ですむなど、あろうはずがないのですから…

 そんなわけで、本書の収録作で描き出されるのは、一見少女レーベルの平安ものに相応しい舞台・キャラクターを配置しつつも、いずれも驚くほど凄惨でおぞましい物語の数々。
 平安時代を舞台とするホラー、それも少女レーベルで、というのは――特に作品の一要素ではなく、そのものズバリというのは――意外に少ないかと思いますが、その中でもこれほど救いようのない物語が大半を占めるのは、相当に珍しいのではありますまいか。

 孤独に暮らす美しい姫君とその乳姉妹が、つきまとう男の狂気に次第に追いつめられていく「朧月夜の訪問者」
 青い瞳と桜のような爪を持つ美少女が、血の繋がらない愛する兄の秘密を知ったことから恐怖に巻き込まれる「瑠璃と桜の人魚姫」
 過去の悲しい事件から声を失った姫君が、ようやく心を動かす男性と出会ったものの、罪の意識に怯えて…という「白露の契り」
 身寄りのない少年が、実は自分の兄だという大陰陽師の家に迎えられるものの、そこで悪意と狂気に苛まされる「紅雪散らす鬼」

 美しいタイトルに相応しい、美しい登場人物、美しい舞台、美しい物語――それが容赦なく壊されていくという悪夢めいた世界に最も近いのは、やはり少女漫画のホラーものでありましょうか。
 恐怖とのバトルではなく、ただ恐怖そのものを描く…ある意味純粋な世界でありましょう。


 とはいえ、正直に申し上げれば、本作の描写は、純粋に恐怖を、あるいは平安世界を味わうには、感心できない部分はあります。
(その最たるものが、あたかも現代っ子のような、そして身分や立場の違いを感じさせない口調で喋る女性キャラたちであることは間違いありますまい)

 また、収録作の間で出来にムラが感じられるのも事実。特に発表時期が最も古い表題作は、逆に驚くような平板さであって…

 と厳しいことを書いてしまいましたが、少なくとも後者は、裏返せば発表時期が新しくなるにつれ、尻上がりに作品の質が上がっているのと同義であります。

 特にラストに収められた、つい先日雑誌掲載されたばかりの「紅雪散らす鬼」は、生まれつきこの世のものならざるものを視ることができる少年が、ある日、本当の生家に引き取られて陰陽師としての修行を積むことに…
 という、いかにも平安ものにありそうな設定を用意しながらも、その先に待ち受けるのは少年の希望や成長の一切を――すなわち、「そういう」物語構造そのものを――否定するような悪意の数々という、底意地の悪さがたまらないのであります。


 読後感的にはかなり悪い(もちろんこれはほめ言葉ではあります)一冊であります。上で述べたような瑕疵も存在します。
 しかし、それでも本書は純粋平安ホラー作品集として珍重すべきものであり――そしてこの先も、この美しくも無惨な世界の物語が書き継がれることを、私は望むものであります。


「朧月夜の訪問者」(長尾彩子 集英社コバルト文庫) Amazon
朧月夜の訪問者 (コバルト文庫)

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