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2014.07.09

「ろくヱもん もののけ葛籠」 明るさと健全さの妖怪活劇

 夢のお告げで、鈴ヶ森の刑場近くにやってきたろくヱもん。そこに現れたのは奇怪な妖怪に追われる老人と娘のお鈴だった。舌切雀のお宿の物ノ怪葛籠を探すという二人を助けたろくヱもんだが、その前に妖怪師・和田倉式部が現れる。ろくヱもんとちま又は、お鈴を守り、葛籠を見つけることができるか!?

 自称・六道の辻の守り番、ろくヱもんこと辻風六右衛門が帰ってきました。江戸の辻に立って通る人を占い、そして無辜の民に取り憑いた妖怪・魔物・祟り神を祓う、謎めいたヒーローであります。

 謎めいたというのはほかでもない、彼が力を借りるのは第六天魔王、そして彼の住むのは、数多くのおかしな妖怪たちが住み着いた魔天屋敷――普段は飄々とした暢気な顔を見せるかと思えば、凄まじい妖術・武術を操る、そんな怪青年なのであります。

 前作にしてデビュー作「大江戸もののけ拝み屋控 ろくヱもん」では、江戸を騒がす巨大な魔・のびあがりと激闘を演じたろくヱもん。その時に相棒となったちびの猫神・虎縞長尾守ちま又之助強髭、通称ちま又も相変わらず元気で、マスコット兼コメディリリーフとして、物語をひっかき回してくれます。

 さて、そんなろくヱもんとちま又が巻き込まれる今度の事件は、なんとかの「舌切雀」のおとぎ話に登場する、あの大きな葛籠と小さな葛籠にまつわる戦い。
 実は現実のものであった――いやそれどころか、何ともスケールの大きな、伝奇的出自と秘密を持つ葛籠を巡り、ろくヱもんはその葛籠を求めてやってきた少女・お鈴を守り、葛籠の在処にまつわる謎に挑むことになります。

 彼らの敵となるのは、妖怪老中の異名を持つ悪徳武士と、その配下の妖怪師(妖怪使い)・和田倉式部。
 邪悪な権力者と結び、奇怪な妖術・妖怪を操る妖術師に苦しめられる人々を救うため、ヒーローとすっとぼけた妖怪たちが活躍するというのは、朝松妖怪時代小説の定番ではありますが、今回は葛籠の在処を巡る謎解きと、魔天屋敷の妖怪たちの大暴れが、ぐいぐい物語を引っ張っていくことになります。

 特に本シリーズにおいては、先に述べたリアル猫侍とも言うべきちま又が、猫らしい騒々しさと憎たらしさ、そして何よりもかわいらしさで楽しませてくれるのですが、今回は謎解きに忙しいろくヱもんに代わっての大活劇。
 さらにそこに助太刀として加わる魔天屋敷の妖怪連中が、ちょっと意外な面子で実に楽しい。こんなのが役に立つのかしら? と思ってしまうような連中が大活躍、というのは一種のお約束かもしれませんが、いやはや、そのすっとぼけぶりがなかなかよろしいのであります。

 そして葛籠の謎解きの方も、ちょっと意外な内容ではありますが、作者のファンにとってはなるほど、と感覚的に理解できてしまう趣向なのが嬉しいところ。
 作中に、魔術的趣向をフッ盛り込んでくるというのは、前作も同様でしたが、これは本シリーズに共通する隠し味なのかもしれません。


 …しかし何よりも本作の最大の魅力は、その明るさ、健全さでありましょう。

 悪人や妖怪が跋扈し、妖術魔術が入り乱れる世界でありながら、しかし本作の読後感、いや、読んでいる最中も明るく爽やかに感じられます。
 それはそんな世界だからこそ――そしてそれを読む我々がこんな現実だからこそ――それに挑む者たちは、どこまでも明るく楽しく、頼もしく描きたいという、作者の想いあってこそ。

 そしてそれを体現するのが、どんな時でも明るさを忘れないろくヱもんのキャラクターであることは、間違いありません。

 ヘビーで複雑怪奇な妖怪時代小説ももちろん結構であります。しかし時には現実のことは忘れて、楽しい怪異の世界に遊びたいという気持ちになることもまたあります。
 そんな時には何よりの、明るく楽しく正しい妖怪時代小説であります。


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もののけ葛籠: ろくヱもん (徳間文庫)


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