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2014.07.15

「安倍晴明あやかし鬼譚」(その二) 虚構と現実の関係性の先に

 六道慧の「安倍晴明あやかし鬼譚」の紹介の後編であります。本作における「現実」に影響を与える「源氏物語」の存在が意味するものは――

 我が国最大の「物語」として、今なお読み継がれる「源氏物語」。
 しかしすべての物語が(主に著者を取り巻く)現実と無縁ではないのと同様、「源氏物語」もまた、当時の宮中の、当時の都の現実を映し、影響を受けているのです。

 そしてそれと同時に、「源氏物語」が現実世界に様々な影響を与えてきたのもまた事実。本作は、そんな現実と物語の関係性を、物語の中心に取り込んで見せます。

 物語の中で、紫式部の思惑とは異なるところで生命を持ち始める「源氏物語」。事件の黒幕が仕掛け、そして晴明が取り込まれたのは、このいわば「物語の魔」と言うべきものであります。
 そして超自然的なものとは全く別の、むしろ正反対のベクトルで物語を歪めようとする権力者の傲慢(しかしそれに対して下される裁きの痛烈なこと!)さ。そして物語を著すことへの紫式部の――当然彼女には作者自身の姿が投影されていることでしょう――不安と自負。

 そうしたものが入り交じった結果、本作は優れた平安伝奇であるのみならず、「源氏物語」という作品を通じて、現実を侵食する物語の姿を描く一種のメタフィクショナルなホラーとして、見事に成立しているのであります。


 しかし――本作で真に印象的な点は、さらにその先に存在します。

 本作の主人公は、安倍晴明であり、そして同様に重要な役割を果たすのが紫式部であることは上で述べたとおり。
 しかし、本作で真に中心となるのは、実は二人の女性――共に一条帝の寵を競う藤原顕光の娘・元子と、藤原道長の娘・彰子なのであります。

 同じ帝の女御として入内しながらも、彼女たちはそれぞれに鬱屈を抱えています。
 悲しい事情により尼となり、父の虐待に近い悪罵に晒される元子。父に大事にされながらも同時に父の強引な振る舞いに心を痛める彰子。

 しかし彼女たちにとっての最大の悲劇は、共に一条帝を愛しながらもそれを素直に表に出せず、そして何よりも帝の心の中には、亡き中宮定子があること。
 そんな二人の境遇が、「源氏物語」に共鳴し、様々な怪異と結びつくことになるのですが――

 そんな、自分の人生を生きることができず、いわば他人の物語の登場人物であることを強いられていた彼女たちは、しかし、本作の物語を経て、自分が自分の物語の主人公たることに目覚めることになるのです。


 奇想に富んだ伝奇物語の先に、物語が現実に与える影響は、決してネガティブなものだけではないこと――そして人は、自分の物語の主人公たり得ることを、日本最大の物語を題材に示してくれる本作。
 先に述べたとおり、現実と物語の関係性を巧みに浮き彫りにしてみせた名品であります。


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