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2014.07.30

「遠野物語remix」(その2) 加除により生まれ変わる物語

 京極夏彦が柳田國男の「遠野物語」に挑んだ「遠野物語remix」の紹介の続きであります。原典を現代語訳するのみならず、収録順を一端リセットして並び替えることで「物語」としてリミックスしてみせた本作。しかし本作のリミックスたる所以は、それだけにとどまりません。

 個人的にはそれ以上にリミックスらしさを感じさせられたのは、各挿話において、作者(京極夏彦)の手により、原典からの加除が巧みに行われている点であります。

 試みに本作の前半に収録されたものから例を挙げてみましょう。

 たとえば第8話、ある日突然、寒戸という土地から姿を消し、三十年後に年老いた姿で突然戻り、再び姿を消した娘の物語…寒戸の婆。
 元話からして、何とももの悲しく、切ない余韻を漂わせた内容なのですが、本作においてはそこにある事実を――原典から抜け落ちた事実を――つけ加えることにより、更なる不思議の味わいを生じさせてみせるのです。

 さらに心憎いのは第7話――異人によって山中に攫われていき、幾人もその子供を産まされたという娘の物語です。
 その生々しい内容も印象的なのですが、何よりも心に残るのは、彼女を攫ったモノの描写――娘の口を通じて語られる、「目の色が凄い」ほかは普通の人間と変わらぬモノたちの存在でありましょう。

 彼らが、山中に暮らすだけでなく、町に出て人と普通に交わっていることをほのめかす原典の内容は、その時点で実に怖い内容ではあります。
 しかし、本作においては、原典の末尾に記された「二十年ばかりも以前のことかと思はる」という一文を省くことにより、それが「いま」この時の怪異であると言ってのけるのであります。


 単なる現代語訳に留まるものではなく、単に順番を入れ替えただけでもなく、さらにそこに加除することにより、見事に新しい、作者自身の物語として再生させてみせる――なるほど、この行為はリミックスというべきでしょう。

 作者のファンはもとより、原典の愛好者も、新たなる「遠野物語」を味わっていただきたい本作。
 そのためには、前回の冒頭に述べた2つのバージョンのうち、原典も併録された角川ソフィア文庫版の方を、強くお勧めするものであります。
 少なくとも上で例に挙げた加除は、この版でなければ気づかなかったものでありましょうから…


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