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2014.08.11

『サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録』第10巻 そして別れと新たな出会い

 ついにこの時が来てしまいました…天正遣欧少年使節第五の少年・播磨晴信と、彼と主従の契約を結んだ忍び・桃十郎の世界を股にかけての冒険譚「サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録」の最終巻、第10巻であります。ゴアで二人が経験する別れと出会いとは――

 中国、アユタヤで大冒険を繰り広げ、ついにアジアにおけるイエズス会の拠点があるゴアに辿り着いた一行。
 そこでかつてザビエルを日本に案内したアンジロウの同名の孫であり、剣術の達人である青年と出会った晴信は、彼を従者に加えることに。

 一方、桃十郎は、自分が求めても届かぬ存在であった織田信長を思わせる男、ムガル帝国皇帝・アクバルと出会い、強く心を動かされることとなります。
 ゴアを騒がす暗殺教団・サッグの本拠に乗り込んだ晴信・桃十郎・アンジロウですが――

 と、この巻でメインとなるのは、晴信と桃十郎の別れであります。
 これまで長きにわたり名コンビぶりを発揮してきた二人ですが、元々は一年限りの主従の契約。そしてその一年も終わりに近づいた今、晴信は自分に足りないものを見出し、そして桃十郎は自分を満たしてくれる者を見出し、それぞれの道を歩み始めることとなります。

 もちろんこれまでも別行動を取ってきたことはあったものの、完全に別れることはなかった二人。それが初めてそれぞれの道を行くことで何が生まれるか…
 それはある意味、晴信と桃十郎という、本作の中心構造の在り方の問い直しであり、言うまでもなくそれは本作で最も大事な展開の一つでありましょう。

 結論から言えば、それが十二分に分量を取ることができなかった、という印象はゼロではありません。
 特に晴信のもとを離れた桃十郎の活躍は、もう少し見てみたかったという気持ちはありますが――しかしむしろここは、限られた紙幅の中で、見事に桃十郎の求めていたもの、求めるものを浮き彫りにし、そこに向かって新たな一歩を踏み出した彼の姿を描いたことを讃えるべきでありましょう。

 そしてもちろん、彼の求めるものがどこにあるのか、それをくだくだしく述べる必要は、本作の愛読者には必要ありますまい。


 長期休載と雑誌の休刊というアクシデントが重なり、やむなくここで物語の結末を迎えることとなった本作。
 しかしその、歴史という一見定められた枠の中で、自由闊達に新たな世界を求め、見出してみせる精神は、最後の最後まで失われず…そして新たな世界に向けて旅立ってみせたと言えましょう。

 もちろん、晴信と桃十郎の旅の最後の最後まで見届けることができなかったのは残念ですが――彼らが再び出会い、そして共に新たな一歩を踏み出す姿を見ることができたのは、何よりの喜びであります。


『サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録』第10巻(金田達也 講談社ライバルKC) Amazon
サムライ・ラガッツィ 戦国少年西方見聞録(10)<完> (ライバルKC)


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