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2014.08.19

『新・若さま同心徳川竜之助 7 大鯨の怪』 鯨と猫、消えた大小の動物

 本編の語られざる物語を描く『新・若さま同心徳川竜之助』シリーズも7巻目、本編が全13巻でしたからまだ半分程度ですが、この調子だとそれに並ぶのでは、という勢いであります。今回の事件は、江戸湾で捕らえられた鯨が姿を消したという、不思議なようなそうでないようなものですが…

 毎度毎度、怪事件・珍事件を担当する(周囲から押しつけられる)ことになる竜之助でありますが、今回は鯨と――猫と、大小二つの動物にまつわる事件に挑むこととなります。

 江戸湾に迷い込み、一度は逃げたものの、二度目に現れたところを漁師たちに捕らえられた鯨。しかし魚河岸まで曳いてこられた鯨は一夜にして跡形もなく姿を消してしまったのです。
 折しも沿岸では不審船が目撃されている中、竜之助は、例によって例のごとく、この一件の調べを押しつけられるのでありました。

 一方、それと並行して発生したのは龍之助の(元)許嫁の美羽姫の親友の嫁入り道具である小さな黒猫の人形が、職人の手元から盗まれた一件。
 細かいことなら見逃さない職人の目をかいくぐり、如何にして人形は盗み出されたのか? 龍之助はこちらの事件も同時に探索することになるのでした。


 海に囲まれた我が国――なかんずく海に面した江戸――の人々にとって、鯨というのは適度に遠く、適度に身近な巨獣であったように感じられます。

 現物に早々簡単にお目にかかれるものではないが、同じ国の中ではこれを捕って暮らす人間もおり、そして時にして自分の暮らしている目と鼻の先に迷い込んでくることもある。

 実際に江戸時代には江戸湾に鯨が迷い込み、物見高い江戸っ子たちを大いに騒がせた記録もあるのですから、本作のシチュエーションは十分にあり得るものであります。

 そして面白いのは、上で述べたように、その大きな鯨の消失事件と並行して、小さな猫(の人形)の消失事件が描かれることでしょう。
 同じく姿は消え失せながらも、そのサイズは雲泥の差。そして鯨の事件は同心・福川竜之助にとってのお役目、公のものであり、猫の事件は徳川竜之助として個人的に頼まれた私のものであるという対比もまた、それなりに面白い構図です。
(さらに、鯨の方には熱血御船手、猫の方にはやたら細かい職人と、それぞれにちょっとオカシな協力者が登場するのも楽しい)


 そんなわけで、これまでの作品同様、ライトでユニークな時代ミステリとして楽しい作品…と言いたいところですが、全てを台無しにしかねないのが犯人のキャラクター。
 これがまた自分勝手…はともかく、とにかく短慮で、犯行のトリックはともかく、その動機については納得できないことおびただしいのであります。

 過去の作品でも、事件そのものは面白いのに犯人がどうにも…というケースがありましたが、しかし本作はそれに輪をかけて困ったキャラであります。
 正直に申し上げて、ミステリとして、いや小説として説得力に破綻をきたしかねないクラスで――
(いや、そういう人物だから、と断言されればそれまでなのですが)

 そこまで楽しく読んできたものが、着地まできて大きくひっくり返った感があり、折角の面白剣法の登場も、それを覆すには至らなかった、という印象であります。


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