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2014.08.05

『慶応水滸伝』(その一) 侠だ。侠の所業だ!

 『天保水滸伝』『明暦水滸伝』と刊行されてきた柳蒼二郎の江戸水滸伝三部作のラストであります。前2作が過去の作品の改題文庫化なのに対し、本作は大ボリュームの書き下ろし。それだけでも嬉しくなってしまうのですが、内容の方も、男の生き様を描いてきた物語のラストに相応しい快作であります。

 タイトルのとおり、慶応――すなわち幕末を舞台とする本作の主役を務めるのは、町火消にして大侠客として知られた新門辰五郎。
 幕末の江戸を舞台とした作品、特に徳川慶喜が登場する作品にはしばしば登場する人物ですが、調べてみると相当に面白い人物であります。

 小金井小次郎や清水の次郎長といった博徒・侠客だけでなく、勝海舟や慶喜といった幕府上層とも交流のあった辰五郎の一生を描いた作品、有名なエピソードや史実をきちんと踏まえつつも、本作ならではの、作者ならではの味付けが施され、快男児が、快男児たちが活躍を繰り広げる、全編どこをとっても痛快と言うほかない物語として成立しているのであります。

 幼い頃に両親を火事で失って町火消「を」組の頭に引き取られ、以来、町火消としてめきめき頭角を現していく辰五郎。本作の第一章、第二章は、彼が「新門」と呼ばれるまでを描く、いわば誕生編なのですが、既にこの時点でとてつもなく熱い。

 失火したことを恥じ、最期の瞬間まで周囲の人々を救い、炎の中に消えていった辰五郎の両親。その想いを胸に立ち上がり、自分のような人間を増やさぬために火消しとして活躍する辰五郎の想い。そんな彼の微笑ましくも熱い恋の姿や、胸のすくような火事場の仕切りっぷり。
 そして彼が浅草の顔役として、旧来の悪辣な連中と対峙して絶体絶命となった時に聞こえてくる按摩の笛の音! と、どこを切っても魂が震えてくるような展開の連続、序盤でこんなに盛り上がってしまってよいのか、とすら感じてしまうのですが…

 しかし、その後も全くテンションが下がらぬことこそ恐るべし。
 名実ともに江戸の町火消しの頂点に立った――すなわち、江戸最高の「侠」となった辰五郎の前に現れるのは、彼に負けず劣らずの綺羅星のような侠たち。
 国定忠治、清水次郎長のような侠客だけでなく、勝海舟、徳川慶喜、さらに出番は少ないものの土方歳三や榎本武揚や山岡鉄舟といった武士たちまで…冒頭で述べたような史実上の関わりがあった者のみならず、果たして関わりがあったかわからぬ者まで、とにかく一廉の人物という共通点を持った侠たちが出会いと別れを繰り返す姿は、なるほど「水滸伝」を冠するに相応しいでしょう。

 しかし、そんな辰五郎をはじめとする侠たちが生きた時代は、決して生易しいものではありません。大地震のような天災、開国を求める諸外国からの圧力、自分の立場しか考えぬ指導者たち…と書くとどこか他人事ではないような気もしますがそれはさておき。

 そんな中でも、いやそんな中だからこそ、辰五郎たちの輝きが失われることはありません。いや、人を助けることが生業の火消だからこそ、彼はそんな困難の中に自ら向かっていくのであります。これを侠の所業と言わずなんと言いましょうか?

 そして…(以下、次回に続きます)


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