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2014.08.22

『あやかし絵師』 青年石燕、大事件に奔走す

 絵師修業中の青年・佐野英之助(後の鳥山石燕)には、幼い頃からあやかしを視る力があった。ある日、既に亡くなった祖母を訪ねて、見かけは小さな男の子のあやかし・白児が現れた。師匠の犬神に破門され、英之助のところに居着いた白児らとともに、英之助は江戸の怪事件解決に奔走することに…

 最近ブームの妖怪時代小説については、このブログで毎月のように取り上げていますが、その中でちょっと興味深いのは、鳥山石燕の人気。既に一シリーズ、今月末にも新たな作品が刊行、そして紹介が遅れてしまいました本作も…と、私の目に入る範囲でも、今年になってから三つ石燕を主人公にした妖怪時代小説が登場することになります。

 さて、その一つである本作は、齢60を超えた石燕のもとを、弟子の北川豊章(喜多川歌麿)と恋川春町が年始の挨拶に訪れる場面から始まります。
 道に迷って途方に暮れるうちに夜になってしまった二人が明かりを頼りに近づいてみれば、そこにいたのは百鬼夜行の群れ。
 実は妖怪たちも向かう先は石燕の屋敷、かくて石燕邸での人間妖怪入り乱れての宴会の中で、石燕と妖怪たちの若き日の四つの物語が語られる、という趣向であります。


 さて本作の石燕は、土御門家の末裔という祖母の血を受け継いだか、常人には見えぬあやかしが見えるという設定。その血(と祖母の存在)が、石燕を毎度妖怪がらみの事件に巻き込むこととなります。

 第一話の「猫又の恩返し」は、そんな彼の前に、彼の相棒役といえるやんちゃな妖怪・白児が現れたことから始まる物語。
 見かけは五、六歳ながら、実は五百数十歳という白児ですが、頭の中身は外見通り、いたずらが過ぎて師匠の犬神から破門され、石燕の祖母のもとを訪ねてみれば…というわけで、あやかしが見えるのをいいことに、白児の世話を押しつけられてしまった石燕が、白児とともに町の殺人事件解決に奔走することになります。

 その後も第二話では江戸城大奥で起きる怪事件の解決、第三話では行き会う人を殺すという百鬼夜行の追跡、そして第四話では将軍吉宗暗殺を狙う陰陽師との対決と、冷静に考えれば一介の絵師見習いが扱うには大きすぎる事件に挑む羽目になる石燕。
 そんな石燕が、白児をはじめとしてちょっと微妙な妖怪たちや、剣術道場の兄弟子で大岡越前の内与力・神崎新九郎とともに、必死に、そしてどこかユーモラスに事件を解決しようと努力するのが、本作の魅力でありましょうか。


 …が、まことに申し訳ないのですが、設定はなかなか面白いものの、正直なところ作品は、平板な印象が強くあります。
 上で述べたように設定自体は面白いのですが、起きる事件や登場人物・妖怪の描写、そして物語展開が、どこか淡々として感じられるのであります。

 作品全体の趣向としては、年老いた石燕を囲んでの宴席で話題になった過去の事件が一つずつ語られていくというもので、それ自体は悪くはないのですが、それも読み進めていくうちにワンパターンに感じられてしまうという…

 作中の事件のスケールを考えれば、あるいはもう少し話数を減らしたり、一冊丸ごと一つの事件でも良いのではないか…というのは素人の浅知恵でまことに恐縮ではありますが、少々もったいない作品に感じられたのは事実であります。


『あやかし絵師』(森山茂里 廣済堂モノノケ文庫) Amazon
あやかし絵師 (廣済堂文庫)

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