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2014.08.18

『将軍家の秘宝 献上道中騒動記』 人の作った山中異界で

 寺を飛び出した青年僧・秀全は、旅の途中、行商人・平助と山に住む女・まつと出会う。裏の顔を持つ平助の仲間であり、まつの恋人である男・嵐を加えた一行は、山中で山上がり衆の不可解な動きを目撃、彼らの後を追ううちに、藩の御留山に近づく。果たして御留山で守られている秘密とは…

 出久根達郎による、信州の山岳を舞台とした時代活劇であります。
 単行本時点のタイトルが『御留山騒乱』であったことからわかるように、舞台となるのは御留山――藩によって入山禁止とされ、役人に守られた山を舞台とした物語です。

 主人公の一人は、諸般の事情で修行中の寺から飛び出した青年・秀全。町で知り合ったいわくありげな薬売りの男・平助とともに賭場に出かけた彼は、平助がいかさまを見破ったとばっちりでともども山小屋に閉じ込められ、そこの主・動物を操る山女のまつと出会うこととなります。

 …と、ここから後はもうひたすらジェットコースターのように止まらず物語が動き続けることとなります。

 実は藩の不正探索方であった平助は、彼の同僚であり、行方をくらましていた嵐という男を捜していたのですが、彼は実はまつといい仲。
 現れた嵐を問いただしてみれば、任務に嫌気がさした彼は山中で見つけた宝を狙っているということですが…そこに向かう途中で一行は、山上がり衆(逃散して山に住み着いた元農民)の人々が、何やら不審な動きをしていることに気付きます。

 さらに現れた謎の一団の襲撃から、山上がり衆の一人・重助を救った一行は、彼の言葉から藩の御留山に何らかの秘密があることを知るのですが――


 山が多い我が国において、山の中の世界というのはある種の魅力を感じさせるものか、伝説や言い伝えはもちろんのこと、時代小説にも、しばしば山中異界という舞台装置は登場いたします。

 本作もその系譜に連なるものと言えそうですが、ユニークなのは、本作におけるそれが、藩の御留山という、あくまでも人の手によって作られた――言い換えれば、平地の世界の延長にあることでしょう。
 そして作中に登場する山の民もまた、逃散農民という近世的な社会システムが生み出した存在で、これもまた、平地との関係が色濃く残っていることとなります。

 この辺り、退屈を嫌って寺を飛び出した秀全が、放浪の末に辿り着いた山中での冒険の末に、また日常に帰って行く…という物語の構図に重なるような気もいたします。


 と、理屈をこね回してしまいましたが、本作の基本はあくまでもノンストップの時代活劇。
 キャラの個性が十二分に活かされているとは言い難く、文庫版タイトルもちょっと違うのではと思いつつも、(舞台が殺生禁断の山というのもあって)作中の全体的に緩やかな雰囲気に包まれて、まずは肩の凝らない活劇として楽しませていただきました。

 ラストが和やかな笑いで終わる冒険も悪くないものであります。


『将軍家の秘宝 献上道中騒動記』(出久根達郎 実業之日本社文庫) Amazon
将軍家の秘宝 献上道中騒動記 (実業之日本社文庫)

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