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2014.08.08

『タイムスキップ真央ちゃん』 過去の先にある現在を見つめた少女の瞳

 小学6年生の真央が拾った喋る携帯電話。それは持ち主の意識を過去の時代に飛ばすタイムスキッパーであり、真央の意識は森乱丸の体に宿ってしまう。戸惑いながらも何とか周囲に馴染み始めた真央の目に映ったのは、苛烈ながら無邪気な織田信長と、彼を敬愛する聡明な明智光秀の姿だったが…

 タイトルを見ただけではいきなりどうしたことかと思われるかもしれませんが、戦国時代へのタイムトラベル(本作の語で言えばタイムスキップ)を扱ったジュブナイルの名作であります。

 今から10数年前の「小学5年生」~「小学6年生」に1年間連載された(後に「1582年の異邦人」と改題され、「コミック戦国マガジン」誌に掲載)本作の主人公は、小学6年生の少女・生田真央。
 現代人が織田信長の時代にタイムスリップするという作品は、調べてみると驚くほどたくさんありますが、小学6年生というのはかなり若い部類ではありましょう。

 さて、本作は、学校で本能寺の変のことを教わったばかりの真央が、学校帰りに不思議な携帯電話を見つけて…という場面から始まります。気がつけばそこは織田と武田の戦の真っ直中、何と森乱丸の体の中に意識だけ飛び込んでしまった彼女は、戦意をなくした武田軍を殲滅しようとした信長に食ってかかるのですが…

 とりあえずは初陣故の混乱ということで赦された真央/乱丸ですが、このままではいられない。自分が未来から来た人間であることを何とか信長に理解させようと悪戦苦闘することとなります。
 そこで未来では飛行機が空を飛んでいることを信じさせようと、紙飛行機を作って飛ばした見せたものの、信長が子供のように無邪気に紙飛行機に夢中になるのに驚きを覚える真央。
 さらに、後に信長を裏切ると習った光秀も、そんな信長を敬愛し、信長とともに一喜一憂する姿を見せるのですが…

 さらに、徐々に乱丸の意識が目覚め始め、一人の体に二つの意識とややこしいことになったり、信長に恨みを持つ伊賀の少女忍が安土城に潜入してきたりと、様々な波乱に巻き込まれる真央。しかし中盤からの本作は、思わぬ展開を迎えることとなります。


 戦国時代に限らず、ある過去の時代に現代の人間が訪れた、当時の考えや行動と全く異なる、現代のそれをぶつけた時、そこに何が生まれるか――それこそが、タイムトラベルものの魅力であり、醍醐味でありましょう。

 もちろん、それが一方的な過去の否定に(あるいはその逆に)繋がるのであれば、それもまた問題でありましょう。
 そうではなく、それぞれの時代にそれぞれの事情があり、それを互いに理解しつつも――しかしそれでも生じる価値観の相違は、それは大いに意味あるものと言えます。

 本作はそれを、女子小学生という、ギリギリ純粋で、それでいて色々と背伸びした考えも持つ世代の少女を主人公とすることで、より強調する効果をあげていると感じるのです(これが男子小学生だと、武将カッコイイ! で終わりかねない)

 そしてまた、信長も光秀も、よくあるキャラのパターンにはめ込むのでも、単一の側面だけを持つ人間として描くのではなく、長所と短所を持つ、ごく普通の人間として描く点もまた、それをさらに効果的にしていると感じるのであります。


 そして本作のさらに素晴らしい点は、真央が、そうした過去(さらに未来)の時代を、自分自身と無縁のものと考えるのではなく、そして自分自身が無力な存在と考えるのではなく――いや、初めはそう考えていたものが、一連の冒険の中で考えを改め、大きく成長していく点にこそあります。

 決して過去と現在は切り離されたものではなく、決して自分は過去を訪れた単なる異邦人ではない…タイムトラベルものとしてはお約束の展開かもしれませんが、しかしピュアな少女の姿を通じて描かれたそれは、強く強く胸に残るのであります。


 しかし――いまはすでに成人し、社会に出ているであろう真央は、今の日本の姿をどう見ているのだろう…というのは蛇足でありましょうか。

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