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2014.08.09

『どくろ検校』 名作の幻の漫画版、ここに復活

 Kindleなど電子書籍で本を読むのにもすっかり馴れましたが、個人的に一番電子書籍に期待しているのは、紙の書籍では手に入らなくなった作品の刊行です。本作はそんな期待に応えてくれた作品、横山まさみちが横溝正史の原作を漫画化した『どくろ検校』であります。

 本作の原作となるのは、もちろんあの名作『髑髏検校』。調べてみると今から約45年前の1970年に月刊別冊少年マガジンに掲載されて以来、単行本未収録だった模様です。
 その作品が何故いま突然…というのは謎なのですが、しかしこれまで原作は不死身の生命力を持って幾度も復活(復刊)されている作品だけに、その漫画版も復活しても不思議はない…というのは言いすぎかもしれませんが。

 さて、原作の『髑髏検校』は以前もこのブログで取り上げたことがありますが、簡単に言ってしまえばブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』の翻案。
 トランシルヴァニアを九州の孤島に、ロンドンを江戸に、ジョナサン・ハーカーを鬼頭朱之助に、ヴァン・ヘルシングを鳥居蘭渓に、そして実在の人物であるドラキュラを…
 と、原典を巧みに怪奇時代小説の世界に移し替え、そしていかにも作者らしい妖異の世界を展開してみせた作品であります。

 そしてこの『どくろ検校』の方は、この原作の流れを踏まえつつ、独自の展開を見せる作品。
 第一部が検校の存在を語る朱之助の手記、第二部が江戸に出現した検校と蘭渓の対決と二部構成の本作、分量でいえば100ページ程度ですが、原作の枝葉をばっさりとカットしてテンポよく物語が進む本作には、むしろほどよいボリュームという印象があります。

 一方、劇画の王道を行くような作者の絵柄(ちなみに我々の世代ではオットセイを連想してしまう作者ですが、元々は貸本漫画出身で、時代・歴史ものの漫画も数多くものされている方であります)ゆえ、そして掲載誌の性格もあってか、原作の妖美さは薄れた感はあります。
 この辺り、原作にあった市村座のくだりが省かれていることもあってか、少々残念ではあるのですが、しかしクライマックスで検校と対峙した者たちの「あの構え」の迫力はやはりなかなかのもの。

 そして何よりも面白いのは、実は後半に、原作と異なる展開が取り入れられている点であります。

 未読の方の興を削がない程度にご紹介すれば、原作では孤島に置いていかれ、ボロボロになって一人江戸に帰り着く朱之助ですが、本作では検校によって(血を吸われることもなく)江戸に伴われてきたという展開。
 それにはもちろん理由があるのですが、ここにあるのは、吸血鬼という怪物の(比較的忘れられやすい)特徴の一つ…外見だけでは普通の人間とは区別がつかないという点と、それを利用する検校の恐るべき奸智であります。

 そしてそんな検校の魔手は鳥居家にも…というように、ちょっと予想していなかった方向に物語は進み、原作読者にとっても実にサスペンスフルな展開となるのが素晴らしいのであります。
 正直なところ、原作はかなり終盤が駆け足だったのですが、その辺りをこのような形でアレンジしてくるとは、と唸らされた次第です。


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