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2014.08.26

『未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団』 未来の少年少女が過去から現在に伝えるもの

 享保の江戸に現れた風変わりな五人の少年少女。彼らは二十二世紀から訪れた未来S高校航時部の面々だった。長屋で起きた密室殺人事件に巻き込まれた一行は、犯人と疑われた町娘を助けるため、行動を開始するのだが…その先に待っていたのは、思いも寄らぬ巨大な敵と、彼ら自身の謎だった!

 辻真先といえば、TV創世記から現在に至るまで活躍を続ける脚本家、そしていまでいうライトノベルであるジュブナイルの名手。
 その作者が現代の少年少女に向けて贈る本作は、未来の少年少女が過去の時代で活躍する、幾つものジャンルをまたいだ快作であります。

 時は享保、将軍吉宗の時代。今日も今日とて平和な江戸に現れたのは、五人の少年少女――文武両道の美少年・黎、歴史オタクの美少女・真琴、古武術の達人の凜音、おっちょこちょいの超能力坊主・越人、そしてマイペースだが頭脳明晰な学。
 彼ら五人(と顧問の美女教師・蓮橘)は、実は二十二世紀の未来からやってきたタイムトラベラー。その時代にはタイムトラベルが実用化され、高校生の部活動に使われるほどだったのであります。

 そんな彼らが到着早々に巻き込まれたのは、長屋で起きた二つの密室殺人事件。仲良くなったばかりの町娘が事件の犯人として番屋に捕らえられたのを救い出すため、彼らは江戸版探偵団として、勇躍乗り出すことに――


 とくれば、なるほど、未来の知識を持った少年少女が、江戸の怪事件を解き明かすSF風味の時代ミステリなのだな、と当然ながら考えてしまうところですが、さにあらず。
 この先に待ち受けているのは、ミステリ、SF、時代小説、異能バトル、青春もの…数々のジャンルがクロスオーバーした、全く先の読めないエンターテイメント世界なのであります。

 ここから先は何を書いても内容の核心に触れかねないのですが、彼らがこの先挑むことになるのは、何やら陰謀を企む伊賀亮と天一坊(!)なる怪人物。そしてもう一つ、彼ら自身の「過去」に隠された秘密であります。

 果たして何が真実で、何が虚構なのか。そして何を信じ、何を疑うべきなのか――少年少女の暮らす世界観そのものが揺るがされる後半の物語の崩壊感覚にはただただ圧倒されるばかりです。
(個人的にはこうした趣向は大好物ゆえ、大いに楽しませていただきました)

 しかし何よりも驚くべきはその先――本作はそして「過去」と「未来」が交錯するその先に、本作は思わぬ形で「現在」を、本作の主たる読者層であろう若者たち(昔そうだった人も含めて)が生きる「現在」への風穴を開けてみせるのであります。

 そこで描かれるものは、あるいは現在の読者にとっては愉しからざる世界であるかもしれませんし、そしてある意味一面的なものであるかもしれません。
 しかしやはりそれは今ここにあるまぎれもない現在の姿の一つであり――そしてそれはありえたかもしれない過去の未来の姿、ありえるかもしれない未来の過去の姿なのです。

 ある意味、ここから感じられるのは懐かしい手触り――かつての日本SFにあった未来への恐れと過去への憧れ、そして現在への決意がない交ぜとなった感覚であります。
 しかし本作はそこにライトノベル的なキャラクター配置を持ち込み、そして過去と未来を縦横無尽に駆けめぐる冒険を展開することで――そしてそれを八十歳を超えた作者が若者たちに贈ることで――様々な意味で文字通り時代を超えた魅力を生み出してみせた…というのは格好良く言い過ぎでしょうか。

 しかし――冷静に考えれば相当に重い話であるにも関わらず本作の読後感の何ともいえぬ爽やかさは、「未来」ある少年少女たちを主人公として描いたゆえであることは、間違いありますまい。


 なお、作者の言によれば、本作はシリーズ化を予定しており、次回作は大坂夏の陣が舞台となるとのこと。
 ある意味本作の舞台とは正反対の激動の時代だけに、どのような物語となるのか、大いに気になるところであります。


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未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団 (講談社ノベルス)

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コメント

辻先生はアニメの脚本家でジュブナイルの名手の他に『アリスの国の殺人』で日本推理作家協会賞を受賞した推理作家としての顔も持たれている方ですから、このシリーズにも何か仕掛けがあるのは確実でしょうね。あと先生の古手のファンには「このキャラはひょっとして?」と思わせる点もありますね。先生の作品はクロスオーバーが盛んなので。

投稿: ジャラル | 2014.08.27 23:10

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