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2014.09.20

『鳥啼き魚の目は泪 おくのほそみち秘録』第2巻 二重のファンタジーの中のみちのく

 日本で最も有名な紀行文である「おくのほそみち」を題材に、常人には感じられないものが視える芭蕉と、天然気味の師匠の世話に奔走する曽良の凸凹コンビのちょっと不思議な旅を描く『鳥啼き魚の目は泪 おくのほそみち秘録』第2巻であります。ようやく仙台に入った二人を待ち受けているものとは…

 みちのくの歌枕を巡る旅に出たものの、あちこちに寄り道したり、おかしな事件に巻き込まれたりと、なかなか先に進めない芭蕉と曽良。
 それでもようやく二人は東北の雄・伊達家が治める仙台藩にたどり着くのですが…そこでも彼らは、これまで以上に厄介事に巻き込まれていくこととなります。

 その一つは、彼らを公儀の隠密と勘違いして警戒する人々の存在。
 なるほど、芭蕉は伊賀上野の出身であり、それ故に彼を忍者、隠密として描く作品は少なくありません。
 本作においても、俳諧を通じて柳沢吉保と縁があること、曽良も幕府神道方の流れを汲む者であることから、諸藩からあらぬ疑いをかけられることになります。

 そしてもう一つの厄介事は、芭蕉の前に現れる、人ならざる者たちの存在。
 これまでも芭蕉の前には様々なモノが現れてきましたが、この巻で彼につきまとうのは、何と宙を舞う三つの生首。あたかも伝説の舞首のように三人(?)ワンセットで空を飛ぶ彼らは、芭蕉の行く先々に現れては、役に立つのか立たぬのか、様々なことを語って行くのであります。

 かくて、現世の、そして幽世の、それぞれの障害に悩まされる――いや、(曽良はさておき)芭蕉の方はそんなことは全く意に介さず、マイペースなのですが――二人の珍道中が今回も描かれることになります。


 実に本作の魅力の中心は、この二つの世界の合間を往く二人の姿にあることは間違いないのですが、しかしこの巻で本作は、さらにドキリとするような要素を突きつけてくることになります。
 それは、芭蕉が求める「歌枕」と、「みちのく」なるものの関係性――「みちのく」という概念の実相と虚構の関係であります。

 これは作中でも明確に述べられることですが、なるほど「歌枕」とは、そのほとんどが実際にみちのくに足を運んだこともない都人が、想像の中で作り上げた「みちのく」に存在するもの。
 そしてその「みちのく」も、まつろわぬ者たちの地として、既に一度都の軍勢に平らげられ、併合されたものであり、その意味で歌枕の存在する「みちのく」は、二重にファンタジーの中の存在なのです。

 それでは真のみちのくは、どこにあるのか――それはある意味芭蕉にとっては旅の目的外でもあり、そして答えの出ない問題かもしれませんが、その難しい道に、芭蕉は徐々に踏み込んでいくように思えます。

 そしてそれはおそらく、舞首をはじめとするこの世ならざるモノたちが芭蕉に語りかける内容、そして彼の夢の中に繰り返し現れる謎めいた情景と、密接に結びついていくのでしょう。


 先に述べたように、現世と幽世という要素に加え、さらに「歴史」というある意味実に厄介な存在(本作の物語と同時期に、水戸光圀が「大日本史」を編纂していることは、実に示唆に富んで感じられます)に触れることとなる芭蕉の旅。

 波瀾万丈――というほど深刻にはならないのが、またこのコンビのよいところなのですが――の旅にまた新しい要素が加わり、これからいよいよみちのくの深奥に踏み込んでいく二人がこの先に何を見るのか…?

 おそらくそこに浮かび上がるものは、我々のよく知るものとはまた別の意味を持つ「おくのほそみち」でありましょう。これは想像するだに胸躍ることではないでしょうか。


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