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2014.09.14

『おそろし 三島屋変調百物語』 第3夜「邪恋」

 TVドラマ版の『おそろし』も、早いものでもう折り返し地点。この第3夜で自らの体験談を語ることになるのは、主人公であり、今まで聞き手であったおちか――これまで仄めかされてきた彼女が経験した事件、彼女が実家を出て江戸にやって来ることとなった事件がいよいよ語られることになります。

 休みをもらったにもかかわらず出かけようともしないおちか。女中頭のおしまは、そんなおちかを客として、これまでとは逆に彼女の話を語らせようとします。

 そして語られるのはおちか自身の物語――彼女の許婚・良助が、彼女とは兄弟のように育った松太郎に殺された事件の顛末であります。

 と、いきなり結末を語ったことである種の予断を持たせた上で、その印象をひっくり返してみせる――
 とは言わないまでも、そこに至るまでのそれぞれの心の動きを描くことでそこまでのドラマを盛り上げていくというのは、ある意味定番とはいえ、「語り」の物語ならではの手法と言えるでしょう。

 おちかが幼い頃のある冬、海辺の崖の松の木に引っかかっていたところを見つけられた松太郎。自分のことは何も語らず、凍傷がもとで右手の指を失った彼は、最初は心を閉ざしていたものの、おちかの両親や兄に家族同然に扱われ、やがてその生真面目な働きぶりから、周囲にも認められていくようになります。

 父や兄はそんな松太郎との縁談を口に出し、おちか自身も松太郎に好意を抱いていたのですが…しかしそんな善意と人情味溢れる家庭も、一皮むけば直接的な悪意以上に残酷な世界、というのは、これは実に宮部みゆき的展開と申せましょうか。

 家族同然とはいえ、あくまでも家族ではない。どこかで一線を引かれたまま、しかし表面上は恩と人情でがんじがらめにされていく松太郎と、そのことに気付きつつも見て見ぬふりをしていたおちか。
 あるいは時が経てばそのまま何事もなくその痛みはそれぞれの胸の中に収められて平穏無事に済んだかもしれぬものが、良助とおちかの縁談によって打ち壊されることとなります。

 良助が(多分に嫉妬から)松太郎に叩きつけた心ない言葉…それは事件の流れから見ればきっかけに過ぎぬものかもしれませんが、しかしそれこそは松太郎が最も心の中で恐れていたものであり、それを剥き出しに――それもおちかの前で――されたことこそが、全ての悲劇のもとでありましょう。

 そして惨劇の直後に松太郎がおちかに叩きつけた「俺のことを忘れたら許さねえ」という言葉は、怨念であると同時に、どこまでも哀しい自分の存在の意味を訴えかけた言葉となのではないでしょうか。


 松太郎が良助を殺したことのみならず、自分がその場で松太郎に殺されなかったことを深い心の傷として残すおちか。
 そのことが彼女をして、自分自身を無価値な人間と思わせることとなっているのですが…さて、松太郎の真意はそこにあったのか。


 忘れないこと、心の中に残すこと…その意味は、裏返せば人の価値、人が自分が生きていることの意味とイコールでしょう。

 そのことにいつかおちかは気付くことができるのか…
 おちか自身の過去が語られた以上に、物語の中間地点として、今回は大きな意味を持つように感じられます。

 超自然現象が描かれるわけではないのですが(ラストははっきりと蛇足と感じます)、しかしやはり「おそろし」という物語を構成する、おそろしいエピソードでありました。



関連サイト
 公式サイト

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